人文科学とデータベース・シンポジウム2007-12-23

昨日のこと、一昨日の、立命館でのモーションキャプチャの国際シンポジウムからすると、連続になる。奈良女子大で開催の、第13回公開シンポジウム「人文科学とデータベース」に行ってきた。

http://www.ozlab.osakac.ac.jp/db/

http://www.ozlab.osakac.ac.jp/db/51.html

この研究会は、特に、運営主体がきちんときまっている・・・というものではない。一応、協議会のメンバーはいるが、開催地(大学)は、京阪神地区を中心に、その都度、決めるという方式で、その時の会場の都合にあわせて、実行委員会ができる。今回は、奈良女子大での開催であったので、この大学の21世紀COEの行事とだきあわせのかたち。

内容は、おおむねいつもどおり・・・といっても、出ていない人にはわからないであろうが、情報処理学会のCH研究会や「じんもんこん」などと、ほぼ同様。理系・文系、双方からあつまって、人文学研究におけるコンピュータ利用の話しをあれこれとする。レベル的にみても・・・まあ、この人文学とコンピュータにまたがる研究分野、それ自体が、まだ手探り状態であることも事実であるので・・・内容・研究水準は、いろいろ。

発表者以外で、会場にあつまるメンバーも、ある意味で、常連が多い。(私なども、その中にはいることになるのだろうが。)

今回のシンポジウムで印象に残っていることをいささか。

CH(あるいはDH)の理念にてらして、ということなるが、まずは、及川昭文さん(総研大)の、「マイ・データベース」のはなし。これは、すでに一部、実現している。たとえば、最低限、エクセルで表現できるほどのデータであれば、それを、誰でもが登録して公開できるようにしようというもの。これは、単にエクセルのファイルを公開するのではなく、データベースのシステムの中に、一定の方式でとりこんでしまって、項目の定義などをチェックしての公開になる。

一方で、津村宏臣さん(同志社)の、「文化財ローカル・ナリッジの集積とWeb-GISを基盤とした文化財現象学」・・・さまざまな文化事象をGISでどう集積して利用するのかの試みのはなし。はっきり言って、この種の発想自体は、そう目新しいものではない。

ただ、この発表が、類例のこれまで発表と違う点は、文化事象(モノ・コト)についていの、属性情報は、実に多様であり、一義的に決定することは不可能である・・・ということを、前提として確認したあったこと。たとえば、もし、弥生文化というものを、稲作と薄焼きの土器の使用、と定義するならば、現代の日本の文化も、まさに弥生文化である・・・ということになる、など。

さて、及川さん・津村さん、両名の発表をふまえてのうえであるが、質疑応答のとき、(残念ながら誰の発言かはっきりしないのだが)、「汎用は無能である」という意味の指摘があった。これは、かなり以前から、伝えられてきた言説なのであるが・・・あらためて、CH・DHの研究会の場で、聞くと、いろいろと考える。

特に、人文学系研究者は、汎用性という方向を指向しない傾向がつよい。理論の一般化ということが苦手、ということにもなる。この意味では「汎用は無能」という言説は、我が意を得たりということになってしまう。

しかし、それではいけないだろう。計算機工学の立場からの発言として「汎用は無能」であると言われたとしても、人文学研究者が、それに便乗して、個別の研究テーマの、いわゆる「タコツボ」のなかに閉じこもってしまってはいけない。

その壁をやぶるためには、いきなり「学際的共同研究」などというよりも、むしろ、及川さんの「マイ・データベース」をたくさんの研究者がつくって公開してつかっていく、というのが現実的ではなかろうか。

なお、このシンポジウム・・・立命館GCOEからの参加者は発表者(瀬戸さん・桐村さん、それに、尹さん)、そして私しかいなかったのは、残念。同日に、衣笠で、文化財防災シンポジウム、を開催していたのに重なったのも原因かと思うが・・・関係者、特に(大学院生やPD)の全員がそちらに行っていたというわけでもないだろう。

まずは、出かけて行って、話を聞いてみよう・・・この積極性がほしい。

GCOE(JDH)の視点と立場を確認しておこう2007-12-23

私が、自分のブログに書いたことは、あくまでも、GCOE(日本文化デジタル・ヒューマニティーズ拠点)のセミナーにおいては・・・という、条件でのもの(2007-12-12の記載)。たとえば、もろさん、

http://d.hatena.ne.jp/moroshigeki/20071213/1197584520

これが、他の地理学の研究会であったり、通常のCH研究会での、発表であったならば、特に、気にするほどのこともない。むしろ、現在のGISの一端を知るためには、有益とさえもいえるかもしれない。

意外なことに、このメッセージには、他の方からコメント(トラックバック)をいただいているし、また、直接に、私のブログをみつけて、感想を語ってくれた人もいる。

問題は、これから先である。

デジタル・ヒューマニティーズについていえば、立命館が、日本で、唯一でもなければ、トップでもない。まず、この厳然たる事実を確認しよう。そして、そのうえで、何ができるのか、考えなければならない。

GCOE(JDH)でも、今後、いろんな研究会が予定されている・・・しかし、それらの情報は、各研究室のブログに表示してあるだけで、全体のMLには流れていない。簡単に言えば・・・横のつながりが、きわめて乏しい。(ブログに掲示しておいたから、勝手に見たい人は見なさい、ということか。)

学科・専攻・研究室単位の縦割り組織の弊害、そして、それにともなう研究分野の細分化。そういうなかで、いわゆる学際的な研究が奨励されたりもしている・・・だが、そもそも、わざわざ学際的交流などという前に、自分の足下を見直すべきであろう。

タコツボの壁をやぶるものこそ、まさにデジタルの学知に他ならないのであるから。