CH77東洋大学(6)2008-02-02

2008/02/02 當山日出夫

池田証寿さんの

漢字字体研究のための日本古字書データベースの作成-観智院本『類聚名義 抄』を例に-

このタイトルで、まず、考えること。これが、他の学会(東洋の古典籍や言語 を専門にする)であれば、サブタイトルの方がメインになる。しかし、CH研 究会では、観智院本『類聚名義抄』、と言ってもすぐに分かる人は少ない。と いうよりも、すぐにわかる人間の方が、世の中全体で、圧倒的に少数であろう。

以前、『源氏物語』についてすこし書いたが、単に『源氏物語』というのと 『大島本源氏物語』というのとでは、まったく、見るレベルが違う。このあた りのことは、さきに書いた『理系のための口頭発表術』でも、言及してあった。 セミナーでは、聴衆が、どれほどの予備知識を持っているか、事前に把握し配 慮すべし、と。

この意味で、発表者の池田さんもかなり苦労していた様子がうかがえる。今に なってであるが、場合によっては、私の方から発言して、補足説明などしよう かと思いながら聞いていた。結局、その心配は、杞憂におわった。

だが、ここでの池田さんの始めたプロジェクトの意義が分かるのは、訓点語学 会に属するような、一部の人間だけだろうなあ……という気はする。それを、 どのように、わかりやすく説明するかが、今後の一番の課題だろう。

また、この池田さんの『名義抄』のプロジェクトが本当に有意義なものとなる ためには、その周辺の諸資料のデジタル化が、不可欠である。(この方向の議 論になると、学会内部での非常にデリケートな問題になってしまう。)

技術的には、そう高いハードルがあるという研究テーマではない。そして、こ の専門分野にとっては、きわめて貴重な仕事である。しかし……このような研 究分野における、研究資料のデジタル化と利用、ここに最大の問題点がある、 ということになる。

これは、私自身の専門分野にも直接かかわる領域であるので、ちょっと書きづ らいというのが本当のところである。

當山日出夫(とうやまひでお)