『ARG』317号2008-04-07

2008/04/07 當山日出夫

新学期が始まってしまうと、ARGにコメントを書くのも、ややつらくなってくる。が、忘れないうちに、すこしだけ。

渋沢財団の仕事は、デジタル・ヒューマニティーズ(人文情報学)の「かがみ」となるだろう。

渋沢栄一、私にとっては、むしろ、渋沢敬三の名前の方がなじみがふかい。「アチックミュージアム」であり、宮本常一への援助などである。この視点からは、実業史研究情報センター、といいながら、単なる「実業=商工業」に終わっていない、視野の広さがすばらしい。

「絵引き」……『日本常民生活絵引き』の復刊版が出たとき、さっそく購入した。大学で国文学専攻といっても、折口信夫の民俗学的な方向にそった勉強であったので、この本は、是非とも手元に欲しかった。

渋沢栄一についての研究にも、「絵引き」の発想が取り入れられることは、非常に良いことだと思っている。これまで、絵画資料に基づいた歴史研究は、一部には、先駆的なこころみがあり、今でも、そのこころみは継続しているが、本格的に、歴史史料として、多くの研究者が利用するようにはなっていない。

デジタルの時代になって、実は、「絵引き」は、簡単に作れるようになった。技術的には、かなり容易になってきているといえよう。だが、それが実現しないのは、もとの資料画像(絵巻など)の、使用の権利の問題がたちふさがるからである。デジタルになって、むしろ、かえって後退してしてしまった印象さえある。

だが、今回の、渋沢財団の企画として、「絵引き」の発想がとりいれられ、その魅力が、世の中にひろまるとすると、「絵引き」に対する、社会の認識も変わってくるかもしれない。

渋沢財団のこころみは、その射程は、これまでに考えられてきた、「デジタルアーカイブ」や「データベース」、インターネットによる情報発信、これらのすべてを、包括し、再考をうながすところに、達している。

デジタルアーカイブの倫理の問題といい、絵引きの応用事例といい、渋沢財団の仕事は、デジタルで文化事象を考えようとしている人間にとって、最先端の存在であるといってよい。今後、ここの仕事から、学ぶべきものが多くあると、期待を表明しておきたい。表面の文字だけをみて、実業史とだけ思ってはいけない。文化史であり、社会の歴史、人々の歴史、にひろがっていくものである。コンピュータ、インターネットによる、歴史学・文化論への、新たなる再チャレンジであると評価していいと思う。

それから、今回のARGで紹介の奈文研の「木簡ひろば」の、「Mokkanshop」については、これから折りをみて、ためしてみたいと思っている。「HNG(漢字字体規範データベース)」との併用によって、古代の典籍・文書類の解読、あるいは、文字(漢字)の歴史研究にどのように、つかえるのか、文字研究者の立場から、考えてみたい。(残念ながら、今、その時間の余裕がないが。)

當山日出夫(とうやまひでお)