学術出版とDTP:組み版のレベルおよびデータの保存性2008-11-25

2008/11/25 當山日出夫

伊藤さん、細かなコメント、ありがとうございます。

通常の日本語ワープロでは、空白でも、2分空き、が使える限界でしょう。それから、1行の中に、サイズの異なる文字が並んでしまうと、ベースラインが、強制的に、どこかに偏ってしまいます。

などなど、プロの組み版から見れば、問題点だらけです。しかし、それでも、通常の日本語文であれば、そこそこ読めるものができる。そして、それを、研究者である、著者・読者が納得していて、出版社がOKであるならば、今後の学術書出版に一つの方向性を開くものとして、期待したいと思っています。

そういえば、今は、忘れられてしまっていますが、ジャストシステムは、組み版ソフトとして、『大地』というのを、一時期、つくっていたことがあります。これが、今に継続していて、『一太郎』と連携していたら。あるいは、管理工学研究所がの『松』が、Windows版で、生き延びていたら。

もともと、管理工学研究所が、日本語ワープロ『松』をつくったのは、写植の組み版のプログラムを開発していたから、という背景があったはずです。MS-DOSの時代、『一太郎』(ジャストシステム)よりも、『松』(管理工学研究所)の方が、きれいに、プリントアウトを作成できました。

ところで、書籍のデータの件ですが、まことに、伊藤さんのおっしゃるとおりです。耐久性という視点から見れば、現在では、紙の本が、すぐれています。今の、CD-ROMやDVD-ROMなどが、どれほどの耐久性を持っているのか、こころもとない限りです。

第一に、モノとしての耐久性。第二に、文字コードや画像フォーマットの継続性。

モノとしての耐久性については、コピーを繰り返せば、いや、コピーを繰り返すことによってしか、将来に残せません。

また、文字コードやフォーマットの問題については、私の知る限り、人文情報学や、アーカイブズの世界でも、近年になって、ようやく、議論が始まったばかりです。少なくとも、昨年ぐらいまで、日本アーカイブズ学会などでは、「デジタルは信用できない」という主張がメインでした。ここにきて、急に、方向が変わってきたな、という印象を持っています。

伊藤さんのあつかっておられる外交資料というのは、公的なアーカイブズとも、非常に関連のある研究分野のはずです。

図書館、博物館、美術館、そして、文書館、これらにおいて、デジタルデータとは何であるのか、いまこそ考えるべき時です。来月12月の6日には、アート・ドキュメンテーション学会で、発表です。ここでは、文字のことについて話す予定をしています。デジタルで、今、見ている文字を残すことの問題、あるいは、困難についてです。印刷博物館が会場ですから、あえてこのテーマで発表することにしました。(発表要旨の原稿はすでに書いて送りましたが、パワーポイントをつくるのは、これから。)

ともあれ、来月の、アート・ドキュメンテーション学会(JADS)の発表について、伊藤さんからのコメントは、きわめて示唆にとむ有意義なものです。御礼もうしあげます。

當山日出夫(とうやまひでお)