『日本の公文書』2010-03-04

2010-03-04 當山日出夫

松岡資明.『日本の公文書』.ポット出版.2010
http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-0140-8.html

ひょっとすると、Europeanaについて、もっとも簡潔に説明してある本は、今の日本では、この本かもしれない。Europeanaというと、一般的なイメージとしては、デジタル・ミュージアムの方向からかと思う。だが、そうではない、Europeanaは、MLA連携のうえになりたっている。だから、A(アーカイブズ)の方向から見ても、価値がある。

とりあえず目次をざっと紹介すれば、

I 公文書管理法はなぜ、必要なのか
II 公文書管理法の成り立ち
III 深くて広いアーカイブズの海
IV デジタル化の功罪
V 記録資料を残す意味
VI 記録資料を残すには

である。

アーカイブズとは何であるか、という基本の解説。それに、現在の日本でようやく成立したところの、公文書管理法の問題点。それをふまえて、各種の記録資料を残す(アーカイブズ)の価値を解説していく。

そのなかで、デジタル化についても触れられている。このなかの一事例として、Europeanaが紹介されるという位置づけになる。人文情報学の立場からするとやや唐突な感じがしないでもない。しかし、本来のアーカイブズと、Europeanaの意義からすれば、この方向が正しいのかもしれないと思うのである。

デジタル化の功罪の章は、アーカイブズから少し離れて、デジタル・ライブラリ、デジタル・ミュージアム、についても言及がある。いや、デジタルになったとき、これらは分離するというよりも、むしろ共通になる方向に向かうべきであろう。そして、そこで発生する問題点も共有することになる。

この本、いわゆる「デジタルアーカイブ」については、かなり批判的な、あるいは、距離を置いた視点で記述してある。この意味において、今日の「デジタルアーカイブ」のかかえる問題点を知るには、まさに適切な書物であるといえよう。

タイトルは『日本の公文書』とあるが、むしろ、デジタル技術による文化資源の保存に興味のある人に読んでもらいたい本である。

當山日出夫(とうやまひでお)