『ARG』420号の感想2010-03-30

2010-03-30 當山日出夫

『ARG』の420号について、すこし。今回の号は、4992部の発行。もうちょっとである。

恒例の国会図書館インタビュー、今回は、

国立国会図書館若手連続インタビュー(8)
    「情報社会に付加価値をつけていく存在へ-伊藤白さん」

非常に興味深い内容をふくんでいるのだが、とりあえず、引用するとすると次の箇所になるだろうか。

>>>>>

納本制度やデジタル化は本当に重要です。なんというかそれは、いわば市場経
済の通貨を用意するようなものではないかと。でも、市場経済の舞台を用意し
ただけで放っておくと、情報の使える人と使えない人の間で、自然に格差がで
きてくる。レファレンスというのは、この格差を是正するための装置なのでは
ないだろうかと。あるいは、その市場経済を利用して上を目指す人を、さらに
支援していくための装置なのではないだろうかと。別にレファレンスだけにこ
だわるわけではありませんが、図書館員として、そんな、情報社会に関与して
いく存在、情報社会に付加価値をつけていく存在であることを止めたくはない
な、と思うのです。つまり、まあ、図書館員の好む表現ですが、図書館は民主
主義を支える柱なわけで、広い意味での「政治」と国民とをつなぐ、いわばコ
ミュニケーターの役割を果たす可能性を、やっぱり私はとても大事にしたいと
思うんです。

<<<<<

ここで、「レファレンス」の重要性について言及されている。そして、これに関連しては、パスファインダーの具体的な事例のことがあり、また、『調査と情報』についてのことがある。

ここで、素朴に思ったことを二つほど。

「国会」図書館だからこそ、『調査と情報』の刊行ということになるのであろう。しかし、これは、むしろ、国立公文書館の担当ではないのだろうか。最近、話題の事案でいえば、日米安全保障条約の密約問題。

日米安保条約の事前協議に関する「密約」
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0672.pdf

これは、本来であれば、国立公文書館がになうべき仕事であるように思える。MLAの役割分担から考えた場合であるが。ただ、日本では、このような仕事を国会図書館がやらざるをえないほど、国立公文書館の役割がひくいともいえるし、逆に、国会図書館ががんばっているともいえる。どう評価すればいいのか、まようところである。

そして、これに関連して、ドイツの事例について、

>>>>>

その出張中、ケルンで見てきた事例なのですが、図書館が市民の読解力向上、
情報利用能力向上にものすごく積極的に乗り出しているんです。市政府や小中
高に該当する教育機関と共同でプログラムを組んで、大学に入るまでに授業で
3回ほど図書館を訪れる仕組みを作っている。それから、ドイツはとても移民
が多いところなのですが、移民が国籍をとるにあたって必須となっているコー
スの授業のなかに、図書館で図書館利用法を学ぶというプログラムを組み込ん
でいるのです。

そうですね。実は別の人にケルンの図書館の話をしたとき、それは図書館によ
る思想の押し付けではないのか、という反応を受けたことがあります。そうい
う反応は十分にありえると思うので、一言だけケルンの図書館を弁護しておき
たいのですが、成人になるまでに図書館を一度は知らなければならない、とい
うことは、知った結果図書館を使わないという選択肢を閉ざすことではないと
思うんです。カリキュラムの中に、たとえばウィキペディアと他の百科事典、
学術論文などを比較するという課題があるのですが、それを行った結果、ウィ
キペディアのほうが役に立つという結論を出したとしても、それを妨げるわけ
ではない。そんなことは問題にしていない。それよりは、そんな比較をしたこ
とがない、別の選択肢があるということを知らないという状況のほうが、その
状況こそが危険であるという、強い認識があるのだと思います。
ただし、岡本さんもおっしゃったとおり、図書館がこういう活動をするために
は、図書館自身が常に、本当の意味で言論の自由を守る場所であることを真摯
に問い続ける必要があります。

<<<<<

ここでは、「図書館」が対象となっている。しかし、おそらく、ヨーロッパの事例として考えてみるならば、「図書館」のほかに「美術館・博物館」それに「文書館」の存在もあるだろう。いわゆる「MLA連携」である。

おそらく上記に引用の、「図書館」は、狭義に図書館だけに限定するのではなく、美術館・博物館、文書館などもふくめて、考えるべきことのようにおもえる。

そして、思うことは、図書館のレファレンスについて考えるならば、その次の段階としては、MLA全体でのレファレンスもあるだろう。「日米安全保障条約の密約文書について知りたいのですが……」と言って、国立公文書館の窓口で、親切に案内して資料を見せてくれるだろうか。

図書館と美術館・博物館、それに、文書館の連携の必要性と、それぞれの性格や目的の違い、これをレファレンス業務という観点から考えてみる必要があるのではないだろうか。MLA連携とは、単に、資料が横断検索できるだけのことではないはずである。

いろいろ考えるところの多いインタビューである。

當山日出夫(とうやまひでお)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの名称の平仮名4文字を記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2010/03/30/4984454/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。