『我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す』2010-08-09

2010-08-09 當山日出夫

中西秀彦.『我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す』.印刷学会出版部.2010

やっと読んだ。で、感想はといえば、タイトルとはちょっと違うな……といったところか。「抵抗勢力」ではなく、「羅針盤」「舵取り」かもしれない。

これまで、各方面から、電子書籍については語られてきている。そのうちで、印刷業の立場から、電子書籍について語ったものとして読む。私自身、DVD版内村鑑三全集にかかわったせいもあって、実際に製作にあたった精興社のひとと話す機会が幾度かあった。そのとき感じたのは、電子書籍といっても、立場……出版社からか、印刷業からか、で、いろいろと、考え方が変わるものであるということ。印刷業には、それなりの考え方がある。

たとえば、本書から、一箇所だけ引用するならば、

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かといって印刷業界人としては出版社と心中するのもあまりうれしくはない。

だからまずは主張すべきは主張させてもらう。印刷したら、当然のようにその原版PDFを要求され、泣く泣く渡すと、それがなんの断りもなく電子書籍として使われているなどというはやはりやってほしくない。

pp.22-23

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まさに、印刷業からの主張である。しかし、電子書籍を否定してはいない。そうなるべき必然性をきちんとふまえて、この本は書かれている。どのような方向で、電子書籍が普及することがのぞましいのか、その俯瞰図を模索しているように思える。

ところで、この著者の会社、中西印刷であるが、この会社のHPを見て、あることに気づいた。中西印刷という会社、学会の事務の代行業務もやっている。言語学会の他に、自然科学系の学会が多いのは、この印刷会社としての営業の反映でもあるのだろう。

ここでふと気になった。いま、情報処理学会は、完全ペーパーレスの方向をめざしている。他の学会はどうなのだろう。いわゆる「学会誌」という紙の媒体は残る方向であるのだろうか。もし、残るとすれば/消えるとすれば、それはどのような理由によってであろうか。

電子書籍の普及の流れの中にある学会誌についても、何か、著者の思うところがあればききたいと思う。

當山日出夫(とうやまひでお)