ウィキペディアとブリタニカ2011-01-26

2011-01-26 當山日出夫

これは危険である……と、思わざるをえない。

学生にレポートを書かせてみた。ウィキペディアについてのものである。そのなかで、幾人かが書いていたこと……ウィキペディアは、ブリタニカに匹敵するだけの正確さをもっているので十分に信用できる。

さて、これは、ただしいことだろうか。

このこと、「ウィキペディア ブリタニカ」で検索してみればわかる。調査したのは、ネイチャー誌。項目は、自然科学にかかわる42項目。(いいかえれば、すべての項目にわたって網羅的に調査したというのではない。そんな労力があったら、新しい百科事典がつくれてしまう……)。

日本語版のウィキペディアの記事を、いくつか見ただけで、書きかけの項目、不十分な記載で問題があると指摘されている項目、いくらでもみつかる。

ところが、この言説=ウィキペディアは正しい、が一人歩きしてしまている。そりゃ、項目をえらんで調査すればそうなるだろう。特に、自然科学の分野では、ある程度の、百科事典的な、あるいは、教科書的な記述の基本がある程度あるだろう。そのようなものと、文学部で学ぶ人文学の世界とを、同列に、無批判にあつかうというのが、そもそも、問題なのではないのか。

甲論乙駁、議論が錯綜して、両論併記さえできないようなのが、人文学の複雑な学知の基本にある。(少なくとも私は、そのように思っている。)百科事典的な、教科書的な、おとしどころのある記載、それもなくはないだろうが、その先を考えるのが、勉強である。

この意味では、執筆責任者がその責任で書いたうえで、各種の参考文献をあつめてくれておいてくれた方が、ありがたいともいえる。不適切な要約は、かえって誤解をまねきかねない。自分で、原典をあたって読んでみるしかない。

基本となる知識があることは否定しない。だだ、そこから、一歩ふみだして何かを語ろうとしたとき、そこに、やはり書き手の解釈のはいりこむ余地がある。いや、逆に、解釈がなければ、人文学の知について書かれた文章ではないともいえよう。

そこに、どのような形で、匿名性にもとづく信頼感をきづいていくのか、課題は、さらに先にあると思うのである。百科事典的な知識とはそもそもなんであるか、このところについての基本的な問いかけから、まず、考えていかねばならないのだろう。

當山日出夫(とうやまひでお)

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