『歴史学ってなんだ?』 ― 2016-05-23
2016-05-23 當山日出夫
小田中直樹.『歴史学ってなんだ?』(PHP新書).PHP研究所.2004
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-63269-8
いわば、歴史哲学の入門といってよいであろうか。
この本を知ったのは、
野家啓一.『歴史を哲学する-七日間の集中講義-』(岩波現代文庫).岩波書店.2016
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/60/0/6003420.html
で、参考文献にあがっていたからである。
大学で歴史学を学んでいる学生を相手にして、歴史学の意味とは、歴史的事実とは、などについて語ってある。いわゆる言語学的転回を経たのちの歴史学は、構成されたものとしての歴史を記述することになる。言い換えれば、神の視点からみた客観的な事実としての歴史は存在しないと考える、まあ、このようになるだろう。これについては、『歴史を哲学する』(野家啓一)で詳しく書いてある。
それよりも、この『歴史学ってなんだ?』の面白さは、歴史哲学の本でありながらも、一方で歴史研究の面白さを語ってくれているところにある、といってよいだろう。
『ローマ人の物語』(塩野七生)をとりあげて、歴史学と歴小説の違いについて分析を加えていくあたりは、なるほどと思わせるところがある。いろいろ比較してみると、歴史学と歴史小説の間にはそう大きな違いはなさそうである……としたうえで、歴史学は「根拠を問いつづける」ところにその存在意義があるとする。つまり、史料批判をふまえているか、そして、そのプロセスが論文とし記述してあるか、ということになると私は理解する。
それよりも、この本についていえば、歴史学は何の役にたつのか、問いかけていることである。
最近、いわゆる国立大学を中心として、文系学部の再編・縮小をめぐるうごきがある。これについては、すでにいくつかの本がでている。が、この本は、今から10年以上前の本であるので、大学の危機、人文学の危機は、一部で言われていたにせよ、制度的な大学の再編にまでおよんではいない時期のものである。その時期に書かれたものとして読んでみても、なぜ歴史学は役にたつのか、という問いかけと、それをめぐる思考は、説得力がある。
ただ面白ければいい、あるいは、ひらきなおっって、役にたたないことに意義がある、とは著者は言っていない。何か、社会の役にたつ道筋を見いだそうとしている。
たとえば網野善彦の仕事。「日本人」とは何であるか、日本列島に住んできた人々の歴史はどうであったか、を問いかけるものである。この意味では、現在の「日本」において、そのアイデンティティを問いかける、実に現実的な問題意識をはらむものである、と指摘する。
『歴史学ってなんだ?』は、ブックガイドとしてもすぐれている。巻末の参考文献にあげてある本を、ちょっとひいてみる。最初から5冊しめすと、
浅羽通明.『大学で何を学ぶか』
東浩紀.『動物化するポストモダン』
網野善彦.『無縁・苦界・楽』
網野善彦.『日本社会の歴史』
池上俊一.『動物裁判』
などである。大学の学生にとって、歴史学をめぐってどんな本を読めばいいのか、迷っているような時に、かっこうのガイドになる。
私もこの本を読んで、
良知力.『青きドナウの乱痴気』
松田英二ほか.『新書アフリカ史』
など読みたくなった。
歴史哲学、物語としての歴史……このあたりのことについては、改めて考えて書いてみることにする。
小田中直樹.『歴史学ってなんだ?』(PHP新書).PHP研究所.2004
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-63269-8
いわば、歴史哲学の入門といってよいであろうか。
この本を知ったのは、
野家啓一.『歴史を哲学する-七日間の集中講義-』(岩波現代文庫).岩波書店.2016
http://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/60/0/6003420.html
で、参考文献にあがっていたからである。
大学で歴史学を学んでいる学生を相手にして、歴史学の意味とは、歴史的事実とは、などについて語ってある。いわゆる言語学的転回を経たのちの歴史学は、構成されたものとしての歴史を記述することになる。言い換えれば、神の視点からみた客観的な事実としての歴史は存在しないと考える、まあ、このようになるだろう。これについては、『歴史を哲学する』(野家啓一)で詳しく書いてある。
それよりも、この『歴史学ってなんだ?』の面白さは、歴史哲学の本でありながらも、一方で歴史研究の面白さを語ってくれているところにある、といってよいだろう。
『ローマ人の物語』(塩野七生)をとりあげて、歴史学と歴小説の違いについて分析を加えていくあたりは、なるほどと思わせるところがある。いろいろ比較してみると、歴史学と歴史小説の間にはそう大きな違いはなさそうである……としたうえで、歴史学は「根拠を問いつづける」ところにその存在意義があるとする。つまり、史料批判をふまえているか、そして、そのプロセスが論文とし記述してあるか、ということになると私は理解する。
それよりも、この本についていえば、歴史学は何の役にたつのか、問いかけていることである。
最近、いわゆる国立大学を中心として、文系学部の再編・縮小をめぐるうごきがある。これについては、すでにいくつかの本がでている。が、この本は、今から10年以上前の本であるので、大学の危機、人文学の危機は、一部で言われていたにせよ、制度的な大学の再編にまでおよんではいない時期のものである。その時期に書かれたものとして読んでみても、なぜ歴史学は役にたつのか、という問いかけと、それをめぐる思考は、説得力がある。
ただ面白ければいい、あるいは、ひらきなおっって、役にたたないことに意義がある、とは著者は言っていない。何か、社会の役にたつ道筋を見いだそうとしている。
たとえば網野善彦の仕事。「日本人」とは何であるか、日本列島に住んできた人々の歴史はどうであったか、を問いかけるものである。この意味では、現在の「日本」において、そのアイデンティティを問いかける、実に現実的な問題意識をはらむものである、と指摘する。
『歴史学ってなんだ?』は、ブックガイドとしてもすぐれている。巻末の参考文献にあげてある本を、ちょっとひいてみる。最初から5冊しめすと、
浅羽通明.『大学で何を学ぶか』
東浩紀.『動物化するポストモダン』
網野善彦.『無縁・苦界・楽』
網野善彦.『日本社会の歴史』
池上俊一.『動物裁判』
などである。大学の学生にとって、歴史学をめぐってどんな本を読めばいいのか、迷っているような時に、かっこうのガイドになる。
私もこの本を読んで、
良知力.『青きドナウの乱痴気』
松田英二ほか.『新書アフリカ史』
など読みたくなった。
歴史哲学、物語としての歴史……このあたりのことについては、改めて考えて書いてみることにする。
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