バックル『文明史』2016-05-27

2016-05-27 當山日出夫

E・H・カー(清水幾太郎訳).『歴史とは何か』(岩波新書).岩波書店.1962
https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/41/8/4130010.html

この本、1962年に初版の本であるが、2014年に83刷で改版している。私が読んでいるのは、84刷。厳密に言うならば、改版第2刷、とすべきであろう。

ところで、ここで書いておきたいのは、岩波新書の書誌のことではない。また、歴史・歴史哲学についてでもない。

カーの『歴史とは何か』(岩波新書)、読み返すのは数十年ぶりになるだろうか。一昨年あたりから、岩波新書のベストセラー、ロングセラーについて、活字を新しくして、きれいな印刷の本が出ている。これもその一冊。きれいになった本で、読み直してみたいと思って読んでいる。

(この本の内容……歴史とは何か……については、また別に書くことにして)読んでいた途中でおどろいたのは、バックル『文明史』がひかれていたことである。(p.82)

私がバックル『文明史』の名前を知っているのは、福澤諭吉『文明論之概略』のタネ本としてである。このことは、福澤研究でとっくに明らかになっていることなので、いまさら書くほどのことではない。

だが、私の世代の感覚からするならば、福澤諭吉『文明論之概略』は、はるか明治の昔の著作。歴史的存在といってよい。(とはいえ、現在の視点から『文明論之概略』を読んでも面白い。それは、たとえば、丸山真男『「文明論之概略」を読む』(岩波新書)三巻を、読んでもわかることである。)

はるか昔のできごとと言ってしまうと悪いかもしれないが、そのように感じていた本がでてきている。それも、過去の事例としてではなく、ほぼ同時代の事例として。あるいは、西洋史にうとい私にとっては、バックルとは、ただ、福澤研究のなかで名前が出てくるだけの存在であった、知らなかった、ということなのかもしれないのだが。

考えてみれば、E・H・カーという人は、1892―1982、であると調べればわかる。(このことは、ジャパンナレッジの日本大百科全書による。)

順番にみると、

バックル  1821-1862
福澤諭吉  1834-1901
E・H・カー 1892―1982
清水幾太郎 1907―1988

となる。

そして、カー『歴史とは何か』を読んでみると、マルクス(1818-1883)や、ウェーバー(1864-1920)が、歴史的な人物というよりも、同時代か、ちょっと前の歴史家という感じで、言及されている。見てみると、バックルとマルクスは、ほぼ同時代の人である。

現在とちがって、歴史のあゆみももうちょっとゆっくりしたものであったろう。この意味では、バックルへの言及も、その当時よりすこし前の歴史家として引用してあるという感じだろうか。『歴史とは何か』を読めばわかるように、20世紀になって書かれたこの本は、19世紀をほぼ同時代か、それより、少し前の時代のこととしてあつかっている。

私にとって、歴史的知識であったバックルが、カーと清水幾太郎を介して、福澤諭吉の時代を経て、今につながったことになる。これは、これで、新鮮なおどろきである。

無論、こんなことは、むかし『歴史とは何か』(旧版の岩波新書)を読んだ若いときには、思ってもみなかった。本を読むことのたのしみとは、このような発見にあるといえるかもしれない。