対話とディベート2016-05-30

2016-05-30 當山日出夫

このことは、何かの本で読んだことである。でも、何の本で読んだか忘れてしまっている。それはそれとして、記憶に残っている(と私が思っている)範囲で書いてみる。

「対話」と「ディベート」である。

学生にプレゼンテーションを教えるときに、ちょっとだけではあるが話しをすることにしている。「対話とディベート、どう違うと思いますか?」、と。学生は、まず、何のことだかわからないという顔をする。

似ているが、これらは本質的に違っている。

ディベートは、自分がとった立場について、賛成でも反対でもかまわない。自分自身の意見とは、まったく別の立場を主張することもある。そして、ディベートにおいては、首尾一貫して、その主張を変えてはならない。言い換えるならば、相手の意見に影響されて変わるようなことがあってはならないのである。もちろん、最終的な判定で負けになれば失敗である。

ところが、対話はそうではない。対話を始める前と、終わった後とでは、自分が変わっていてもいい。いや、変わらなければならないのかもしれない。相手の意見に触発され、自分とは違った意見に耳をかたむけ、自分の考えを変えていってよい。そして、相手も自分も、対話の終わった後では、それぞれに別の考えに達することができるなら、それにこしたことはない。

だいたい、上記のように言う。そして、「君たちは、ディベートで勝ちたいと思いますか、それとも、対話で新たな自分を発見していきたいと思いますか?」、と問いかけることにしている。

ちょっとしたことだが、これについての学生の反応はいいようだ。それまで、ディベートとか、議論とか、プレゼンテーションとかについて、あまり、どういうことなのか考えたことがないせいもあるだろう。

ところで、いわゆるプレゼンテーションというのは、ディベートであろうか、対話であろうか。これは、なかなか難しい問題である。

学会発表のような場面、基本、自分の意見がぐらつくようなことがあってはならない。終始一貫して、同じ主張をつらぬかなければならない。この意味では、ディベートに近いだろう。

しかし、そうではないようなものもある。問題提起をしたいような発表。たとえば、この前(5月22日)の訓点語学会(京都大学文学部)における、石塚晴通の発表。これは、あきらかに、自分の主張を述べると同時に、これから、仮名の研究について、どのような視点がありうるかの問題提起でもあった。質疑応答において、「そのような考えもありますね」という趣旨の発言もあったかと記憶する。

そして、教育の場面では、どうあるべきだろうか。教える教師の立場からすれば、話の途中で意見が変わるようなことはあってはならないのが、原則だろう。しかし、学生同士が議論するようなときはどうだろうか。お互いに、その主張をゆずらず、平行線のままで終わるのがいいのか。それとも、異なる意見をぶつけることで、新たな知見を得るようにもっていくのがいいのか。

たぶん、場面によって判断しなければならないことだとは思う。だが、対話という姿勢のあり方……相手の言うことに耳をかたむけ、自省し、なぜ自分はこのように考えるのか、相手のように考えることがないのはどうしてなのか、みずから考えてみる……このようなこともあっていいのではなかろうか。そのような心の持ち方も、また、大切なものだと思っている。

宮下志朗『カラー版書物の歴史への扉』2016-05-31

2016-05-31 當山日出夫

本は好きな方である。そして、本についての本も好きである。これは、本好きの人間にとっては、魅力的な本である。

『図書』、これは言うまでもなく岩波書店の広報誌である。その図書の表紙を飾った書物について、カラー版として再編集して、一冊にまとめたもの。2008年から2014までのものがまとめてある。

宮下志朗.『カラー版書物の歴史への扉』.岩波書店.2016
https://www.iwanami.co.jp/book/b243776.html

著者(宮下志朗)は、ルネサンス文学の研究者・翻訳者。みずから「どうしてもその時期の書物に偏りがちになる」としながらも、近現代の書物にまで、幅広くその目はおよんでいる。

と言っても、やはり西洋の書物が中心である。だが、見ると、中には日本の本もいれてある。

鈴木信太郎・渡辺一夫訳『サン・ヌゥヴェル・ヌゥヴェル――ふらんす百綺譚』
1949年、東京、洛陽書院刊

もあれば、

江戸川乱歩『押絵と旅する男』フランス語版
カリーヌ・シュノー訳、2000年、アルル、フィリップ・ビキエ刊

のような本もとりあげられている。

各本について、一ページの解説がついている。宮下志朗の本である。ただ、その本について言及するだけではなく、その周辺の出版史は無論のこと、文化史・社会史にまで、ひろく目配りの聞いた記述である。

このような本、どこからともなく、適当にページを開いて見るのが楽しい。(本自体は、全体として、テーマ別に編集してあるのだが。)

なお、上記の記事、とりあげてある書物の書誌の記載方法については、この本の方式にしたがって書いておいた。

追記 2017-05-29
ここでとりあげた本の出版社HPのURLを更新。