安丸良夫『神々の明治維新』2016-06-09

2016-06-09 當山日出夫

安丸良夫.『神々の明治維新-神仏分離と廃仏毀釈-』(岩波新書).岩波書店.1979
https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/42/9/4201030.html

若いときに読んでいたはずの本だと思うのだが、見当たらないので買い直して読んでみた。(先日の、著者の訃報に接してである。)

サブタイトルのことばが、この本の内容をよく表している。神仏分離と廃仏毀釈については、歴史の教科書で習って、名前ぐらいは知っている。よく事例に出されるのが、興福寺と春日大社の例。これについては、たとえば、島田裕巳の本に詳しい。

島田裕巳.『なぜ八幡神社が日本でいちばん多いのか』(幻冬舎新書).幻冬舎.2013
http://www.gentosha.co.jp/book/b7239.html

ところで、現在、われわれは神仏分離・廃仏毀釈について、どのようにイメージしているだろうか。明治の近代国家成立の過程でおこったできごととし、過去の事件としてであろうか。確かに、これは、過去の日本の歴史においておこった出来事であるにはちがいない。

だが、それだけでは済まされない問題があると、私は思う。というよりも、この本『神々の明治維新』が、それを教えてくれる。現代のわれわれの宗教観、ひいては国家観にかかわる問題でもあるのである。

では、現代のわれわれから見て、明治維新のときにおこった神仏分離・廃仏毀釈というのは、どういう意味があるのであろうか。神仏分離・廃仏毀釈の政策は、結果としては失敗したといえるだろう。だが、その影響は、今におよんでいる。

それは、筆者の表現を引用するならば、次のようになる……

「神仏分離と廃仏毀釈を画期とし、またそこに集約されて、巨大な転換が生まれ、それがやがて多様な形態で定着していった。そして、そのことが現代の私たちの精神のありようをも規定している」(p.2)

(教育勅語について)「国家は、各宗派の上に超然とたち、共通に仕えなければならない至高の原理と存在だけを指示し、それに仕える上でいかに有効・有益かは、各宗派の自由競争に任されたのである。」(p.209)

(近代日本における信教の自由は)「国体神学の信奉者たちとこれらの諸政策とは、国家的課題にあわせて人々の意識を編成替えするという課題を、否応ない強烈さで人々の眼前に指示してみせた。人々がこうした立場からの暴力的再編成を拒もうとするとき、そこに提示された国家的課題は、より内面化されて主体的にになわれるほかなかった。」(pp.210-211)

そして、私がこの本を読んだ印象としては、明治初期の神仏分離・廃仏毀釈は次の三つの課題を残したと理解する。

第一に、いわゆる「国家神道」の形成である。筆者では、この本ではそこまで語ってはいないが、戦後、はたして、われわれは「国家神道」というものから、本当に自由になれたのであろうか。それを克服できているのであろうか。

第二に、民間信仰・民俗宗教の抑圧である。近代における神社の再編成、そして、廃仏毀釈の運動によって、多くの民間信仰・民俗宗教が、排除されることになっている。それをくぐりぬけたものが、今に残っていると考えるべきであろう。それ以前の神仏習合の状態にあったときからの民俗を、現代、どのように考えるべきなのか。「国家神道」の形成は、民俗宗教の疎外とワンセットのことがらである。

第三に、宗教の内面化である。たとえば、島地黙雷について「真宗の近代性への確信と、ナショナリストとしての情熱と、近代文明への希求とを、結びつけた」という。(p.204)。

そして、この第三の論点は、近代日本における宗教の重要な課題になっていると私は思うのである。この論点については、

島薗進・中島岳志.『愛国と信仰の構造-全体主義はよみがえるのか-』 (集英社新書) .集英社.2016
http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0822-a/

が、重要であると思う。これについは、またあらためて。

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