プレゼンのUSBメモリの注意点2016-06-10

2016-06-10 當山日出夫

学生に、プレゼンテーションを教えている。具体的には、パワーポイントをつかっての実習である。学生に、実際に、教室の前にたって発表をやってもらう。

教室の前の教員用のパソコンを使う。そのマシンで、パワーポイントの画面を見ると同時に、同じ画面が、プロジェクタでスクリーンに映し出される。

このとき、学生は、パワーポイントのスライドのデータをUSBメモリでもってくる。これは、普通のことだろう。だが、その時、ことさらに注意していることがある。

たいていの学生は、プレゼン用のスライドデータを、その他のデータ(他の授業のものなど、いろんなフォルダや、文書ファイルのデータ)と一緒に持ってくる。そして、その画面(USBメモリをパソコンにセットして、開いて見た画面を、プロジェクタで、みんなに見せてしまう。しかも、なかには、いったいどのファイルだったかわからなくなって、まごつくような学生もいる。)これを、私は、注意することにしている。

これは、今の時点で教室で見ているのは、学生と教師(私)だけであるからいいようなものの……これが、卒業してから就職して、企業の仕事で、外に出てプレゼンテーションしなければならないような場面だったら、基本的にダメだということにしている。

理由は、次の二つ。だいたい次のようにいう。

第一に、会社の自分の業務で作っているような書類のデータがどんなであるか、それを社外の人に見せてしまっていいと、思いますか。発表している人の会社は、会社のデータを、社員が勝手に外に持ち出している……そんな危惧を、見ているひとはいだくかもしれない。そのような会社が信用されると思いますか。

あるいは、会社の仕事のデータと、個人のデータとを、区別しないで、ひとつのUSBメモリにいれて、持ち歩いているようなことは、企業倫理として、許されることでしょうか。

第二に、もし、そのUSBメモリを紛失したりしたらどうするんですか。貴重な他のデータも、消えてしまうことになる。そんな危険をおかしていいのでしょうか。

実際、大学のコンピュータ教室で困ることのひとつ、USBメモリ(かつては、フロッピーディスク)の忘れ物である。これは、キャンパス内の忘れ物の担当の部署にとどけはするものの、その後、どうなるかは、関知するところではない。

だいたい以上のようにいう。そして、発表のときには、その発表で必要なデータ(パワーポイントのスライド)だけをいれた、USBメモリを用意してきて、それを使うようにしなさい、ということにしている。

それでも、たいていの学生は、この注意点をきかないで、あいかわらず、他のもろもろのデータと一緒に持ってきて、そのフォルダをひらいた画面を、教室でみんなに見せて平然としている。

しかし、この前、私の注意にきちんとしたがった学生がいた。発表のスライドのデータだけをいれたUSBメモリを準備してきた学生である。

プロジェクタで映し出された画面には、ぽつんとひとつだけ、その日のプレゼンテーション用のスライドファイルがあるだけ。これは、非常な安心感を与えてくれる。(少なくとも、私には。)

話しを聞くと……大学生になってからずっと、ある大手の宅配の業者のところでアルバイトをしていたとのこと。たとえば、配達の時間を厳守する、お客様には常に笑顔で接する、代引きなどの金銭管理は厳格に、など。たぶん、その宅配のアルバイトの仕事のなかで、企業のコンプライアンスが身についているのだろう、と感じさせた。宅配業というのは、各種の個人情報にかかわる業務である。したがって、そこでの企業倫理は、厳然としたものがあるだろう。

学生が成長するのは、なにも大学のキャンパスのなかでだけとは限らないといってもよいかもしれない。大学生であることの意義は、様々な可能性の時間をあたえてくれることにある。

いや、本来は、大学の教育のなかでおこなわれるべきことなのかもしれないが。