細谷雄一『安保論争』2016-07-14

2016-07-14 當山日出夫

細谷雄一.『安保論争』(ちくま新書).筑摩書房.2016
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480069047/

安保論争は、もう過去のことなのであろうか。いや、そうではなく、改憲論議をふくめて、現在においても考え続けなければならないことであろう。この観点からは、この本は、いろいろ有益である。

ただ、この本は、安保法制について賛成の立場から書かれているので、それに批判的な意見の人は、そのつもりで読む必要がある。

読んでみて、よかったと思える点と、そうではなく、論じ方が不十分ではないかとか思える点、二つあげておきたい。

第一に、この本のすぐれている点のひとつ。この本、基本的に集団的安全保障を積極的に認める立場をとっている。その観点から、昭和戦前の歴史……日本が世界から孤立して戦争につきすすんでいった歴史……と、現在の安保法制をめぐる状況の比較である。

「国際社会の潮流を理解する努力を怠り、自らの国内的正義が世界に通用すべきと横柄に語る姿は、戦前の日本の軍部の強行派も、現在の日本の一部の平和主義者も、大きな違いはない。」(p.100)

「ところがそのような平和は、もろくも崩れ落ちた。それを壊したのは、日本であった。一九三一年九月の満州事変の際の軍事作戦以降、日本は国際的な規範や国際法を無視して自らの勢力圏を拡張したのである。(中略)/日本の軍事行動によって、国際連盟による集団安全保障体制は崩れていった。」(p.104)

「それでは、海外では比較的好意的な反応が見られたのに、日本国内ではなぜ批判が広まったのか。私は、一九三〇年のロンドン海軍軍縮条約への「統帥権干犯」という批判と、現在の平和安全法制への「憲法違反」という批判の精神構造が、きわめて似たものであると感じている。このどちらも、日本の国内法上の論理を絶対的な正義と考えて、国際法や国際協調をそれほど重要なものとはみなしていない。それは、国内的正義の絶対性を主張するという意味で、ナショナリズムの運動でもあるといえる。」(p.236)

この指摘、安保法制反対派が「ナショナリズム」であるという指摘は、あたっていると思う。

第二に、この本で、論じきれていないと感じた点。

それは、アメリカとの関係である。安保法制が、憲法、あるいは、その解釈と不可分の関係にあることはいうまでもない。そして、その憲法も、日本の自衛隊もまた、アメリカとの関係をぬきにしてその存在がありえない。

歴史的にも、そうである。論者によっては、現在の憲法はアメリカからの押しつけだという立場もある。また、自衛隊そのものも、国際情勢(東西対立)の結果として、アメリカの要請によって設立されたという経緯がある。そして、現在においても、日本のあり方には、依然としてアメリカが重要な位置を占めていることは、認めざるをえない。

安保法制の議論で危惧された論点のひとつは、アメリカのいいなりになってしまうだけではないのか、という点があったはずである。この論点に対しては、十分に反論できていないように思える。

「自国の領土や国民を防衛するだけの軍事力と、はるか遠くに遠征して軍事力を展開させて、危険な侵攻作戦を展開するための軍事力は全く異なる。純粋に、日本には地球の裏側で戦争を行う意思などないし、またそのための能力もない。」(p.242)

と語るだけでは不十分なように思える。確かに、現在の自衛隊の装備は、長距離の遠征能力はないとみるべきではあろう。

だが、現実に懸念があるのは、地球の裏側(たとえば中近東など)ではなく、日本の周辺(東シナ海など)ではないか。このような地域での、アメリカとの軍事行動と一体化することの危惧については、さんざん批判され議論されたことであったはずである。

それに、日本がアメリカのいいなりではない、対米従属ではない、ということの事例として、国連での投票にどれほど賛成/反対しているか、という数字は、現実的に日本の進路をきめる判断として、あまり参考にはならないと思われる。具体的にどのような案件について、賛成しているかどうかが吟味されなくてはならない。

現実的な問題としては、中国の海洋進出について、日米で、どのような対応が可能であるのか、あるいは、どのような問題点があるのか、ということであろう。このような疑念について、可能な範囲で、具体的に論じるべきではないかと思う。

この他にも、本書について書くべきことはあると思う。ここでは、以上の二点をしるしておきたい。

追記 このつづきは、
やまもも書斎記 2016年7月15日
細谷雄一『安保論争』違憲か合憲か
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/15/8131957

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