井上達夫「憲法と安全保障」2016-07-24

2016-07-24 當山日出夫

さらにつづけることにする。

やまもも書斎記 2016年7月20日
『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/20/8134764

やまもも書斎記 2016年7月22日
井上達夫「戦争の正義」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/22/8135835

やまもも書斎記 2016年7月23日
井上達夫「護憲派の欺瞞」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/07/23/8136356

井上達夫.『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください-井上達夫の法哲学入門-』.毎日新聞出版.2015
http://mainichibooks.com/books/humanities/post-68.html

この本の真骨頂というべきは、ここにいう九条削除論であろう。

「私は、憲法九条を削除せよ、と主張しています。」(p.52)

「誤解してほしくないのは、私が言っているのは九条「削除」であって、九条改正、ではない。」(p.52)

「私は、安全保障の問題は、通常の政策として、民主的プロセスのなかで討議されるべきだと考える。ある特定の安全保障観を憲法に固定化すべきでない、と。だから「削除」と言っている。」(p.52)

「憲法の役割というのは、政権交代が起こり得るような民主的体制、フェアな政治的競争のルールと、いくら民主政があっても自分を自分で守れないような被差別少数者の人権保障、これらを守らせるためのルールを定めることだと私は考えます。」(p.53)

「安全保障の問題も、通常の民主的討議の場で争われるべきです。」(p.53)

そして、「護憲主義」の「欺瞞」を批判している。

「それがいやだからといって、憲法で自分たちの主張を固定しようとする。これは、自分たちの安全保障観を、自分たちの政敵に押しつけるための、政争の道具として、憲法を使っていることになる。自分たちが望む範囲内に現状を維持するためには、解釈改憲をやってもいい、現状を違憲だ、違憲だと言い続けて、現状を固定してもいい。こういう欺瞞が、護憲派にもあったということです。」(p.54)

そして、そのうえで、憲法九条を削除、そして、徴兵制に言及する。

「だから、徴兵制の採用は、軍事力をもつことを選択した民主国家の国民の責任である、と。自分たちが軍事力を無責任に乱用しないために、自分たちに課すシバリだ、ということです。/そして、徴兵は、絶対に無差別公平でなければいけない。富裕層だろうが、政治家の家族だろうが、徴兵逃れは絶対に許さない。」(p.62)

徴兵制を認めるとしたうえで、

「そのうえで、兵役への良心的拒否権を保障する。」(p.63)

以上、井上達夫の本に依拠して、護憲の欺瞞、さらには、その九条削除論、徴兵制、と見てきた。

基本的に、前にもしるしたとおり、井上達夫という人は、知的にラディカルにものを考える人だと感じる。だが、それが、実際に説得力のある議論になっているかどうかは、また別の問題かもしれない。

特に、九条削除論は、逆に、否定的な見解をもつ人が多いだろうとおもわれる。なんらかの形で、軍備を持つにせよ(持たないによせ)、憲法に明記して、その運用に限定をかけておくべきだというのが、おおかたの考えではないだろうか。

しかし、だからといって、これまでみてきたように、憲法についてラディカルに考えることが無意味だとは、私は思わない。特に、「護憲」の「欺瞞」については、もっとその意味するところを考えてみる必要があるだろう。

とにかく、「欺瞞」に無自覚であるとういのが、一番の問題だろう。どのような主張をうするとしても、すくなくとも「欺瞞」を自覚していないといけない。この意味では、この本は、読まれていい本だと思うし、議論の出発点になる本だと思うのである。

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