波多野睦美「月の沙漠」2016-07-25

2016-07-25 當山日出夫

波多野睦美.『月の沙漠-日本のうた-』(2014)
http://www.dowland.jp/cdinformation/cd.html

このごろ、寝るときに聴くことにしているCDである。(厳密には、CDを聴くのではなく、WalkmanにFLACでコピーしたものを聴いているのだが。)

なんとも、格調の高い、そして、叙情的な「月の沙漠」であることよ……と思って聴いている。おそらく、ほとんどの人……あえて日本人といっておくのだが……であれば、知っている曲。それを、正統なクラシックの歌唱でうたいながらも、格式張ったところがない。ごく自然に、耳にはいってくる。やさしい情緒がある。

波多野睦美が日本の歌をうたったCDとしては、

波多野睦美.『美しい日本の歌』

がある。これは、最初出たときは、CCCDだった。近年、通常のCD版がでたので、これも買ってWalkmanにいれてある。

重複する曲がいくつかある。「ちんちん千鳥」「城ヶ島の雨」など。聞き比べてみると……このような言い方が適切であるかどうか自信はないのだが、年を経て、年齢をつみかさねていった、成熟といってもいいだろうか……が、感じられる。『月の沙漠』に収められている方が、はるかに、しっとりと落ち着いた情感がある。

たぶん、伴奏が、ピアノ(野平一郎)から、ハープ(西山まりえ)にかわったことも影響しているのかなと思ったりするが、それよりも、本人(波多野睦美)の歌唱が、年を経て、より落ち着いた感じのものになっている。

なんといえばいいのだろうか……クラシック音楽の歌唱として、ユニバーサルな美を追究しながら、そのなかに自然と、ローカルなもの……これを日本的といってしまってもいいのか思うが……が、にじみ出てる感じなのである。意図的に、いわゆる日本情緒を強調しようとした感じはしない。そうではなく、ごく自然に歌った結果が、そうなっている、といえばいいだろうか。

『月の沙漠』は、「蘇州夜曲」からはじまる。この曲、その曲のなりたちからして、中国的な情感と日本的な情緒をミックスしたようなところがある。それを、ふくみながらも、ユニバーサルな美しさを感じさせる歌になっている。

このようなことは、「庭の千草」にいえる。もとは、アイルランド民謡。外国の曲であるが、日本でしたしまれている。それを、日本的な要素をまじえつつも、原曲をどこか感じさせる。

そして最後に、「アカシアの雨がやむとき」。この歌、いろんな歌手がうたっている。もちろん、オリジナルは、西田佐知子。それはわかっているのだが、この波多野睦美版の「アカシア…」は、凛とした気品のある歌になっている。そして、情感もある。

月並みないいかたであるが、美しい日本語の歌、という言い方がこのCDにはぴったりとくると感じている。