一ノ瀬俊也『戦艦武蔵』2016-08-03

2016-08-03 當山日出夫

一ノ瀬俊也.『戦艦武蔵-忘れられた巨艦の軌跡-』(中公新書).中央公論新社.2016
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/07/102387.html

武蔵については、私は次のものは読んでいる。

吉村昭.『戦艦武蔵』(新潮文庫).新潮社.2009
※ただし、私が読んだのは、改版されるまえの旧版である。
http://www.shinchosha.co.jp/book/111701/

手塚正己.『軍艦武藏』上・下(新潮文庫).新潮社.2009
※これは、今では絶版で、新版が太田出版から出ている。

『軍艦武藏』上・下(新潮文庫)については、かなり以前にこのブログに書いている。

やまもも書斎記 2009年9月10日
『軍艦武藏』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2009/09/10/4571702

ところで、この本(一ノ瀬俊也『戦艦武蔵』)にえがかれた武藏(あるいは大和)については、基本的に次の二つの観点があるように思う。

第一に、いたずらに賛美も否定もしないという姿勢である。

たとえば、次のような箇所。

「明治以来、日本が蓄積してきた建艦技術の頂点に位置する大和・武藏に対しては、いたずらに賛美も否定もすることなく、日本近代史上の一産物として冷静に評価することが必要であろう。」(p.39)

このような視点を確認したうえで、武藏・大和についての、その技術が当時の世界の海軍のなかでどのように位置づけられるのか、また、それが、戦後日本の復興にどのように貢献したか(しなかったか)ということが、多様な証言をもとも多角的に論じられている。

第二に、上記のような視点をもちながらも、歴史の物語を見ていこうとという視点である。

たとえば、民俗学者の大月隆寛に言及して、つぎのようにのべる。

「戦前の日本には、戦争(いくさ、原文ルビ)物語を今日のような「嘘と真実」などという、ある意味でさかしい二分法をもって読む者などいなかったのだ。」(p.161)

そして、どのような武蔵の物語が形成されていったか、そして、それは、大和とどのようにちがうのかが、様々な視点から分析されている。

以上の二点が、この本の叙述の基本姿勢であるといってよいと思う。そして、そこに語られる様々な武藏の物語の、どのような部分に読者が共感するかどうか、これは、読者にゆだねられることになるのだろう。

武藏をめぐっては、種々の本がすでにある。吉村昭、手塚正己、佐藤太郎などの、武藏をめぐる作品のいくつか、それから、大和についての吉田満などを、比較検討して、どのような物語を、武藏に見出していったのか、構築していったのか、が検証されてされている。

だから、読後感としては……様々な武藏の物語が紹介されるので、読者としてはいささか混乱してしまいかねない。だが、著者の基本にある姿勢は、戦争を、「ファンタジー」として語ってきた歴史、そして、今の状態(たとえば「艦これ」)を、概観することにある。

おそらく、この本から読み取るべきものは、戦争の「事実」もさることながら、そこに人間がどのような意味を見出そうとしてきたのか、「ファンタジー」と見なす側面に光をあてて、その歴史的経緯を、時代背景とともに描こうとしたところにある、と読む。この本、最終的には、現代の「艦隊これくしょん」にまで言及してある。

この本は、武藏という戦艦について何かを知りたいという本ではない。そうではなく、「武藏」という「ファンタジー」がどのように形成され、継承されてきたのか、戦前から戦後・現代にいたるまでの時代の流れをふまえながら、その多様な面をとらえようとした本である。

なお、今年の夏、NHKが武藏をドラマ化する。
ザ・プレミアム「スペシャルドラマ 戦艦武蔵」
2016年8月6日
http://www4.nhk.or.jp/P4097/#block_schedule_1

ある意味では、ここでもまた、新たなる「武藏」の「物語」が作られていくことになるのであろう。

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