NHK朝ドラの戦争の描き方2016-10-13

2016-10-13 當山日出夫

NHKの朝ドラ……連続テレビ小説……を見ていて、いろいろ気になることはあるが、最近、戦争の描き方が、興味深い。

今やっている『べっぴんさん』(2016後)では、第一回の冒頭は、戦争で焼け野原になった神戸の街をヒロイン(すみれ)が眺めるシーンからはじまっていた。そして、時をおなじくして再放送がはじまった『ごちそうさん』(2013後)でも、ヒロイン(め以子)が空襲でがれきの街と化した大阪で、食事をつくる場面からはじまっている。ともに、戦後の荒廃したシーンからはじまって、それから、その子供のころの話し(戦前)にもどって、ドラマがスタートするという構成であった。

それから、戦前・戦中の場面こそあまり登場しなかったものの、『梅ちゃん先生』(2012前)でも、空襲をうけて荒廃した東京(蒲田)の街から、番組がはじまっていた。

こういうのを見ると、ドラマとはいえ、戦後の空襲で荒廃したところから、戦後の日本が再スタートしたという、現代日本の原点とでもいうべきものが、そこに描かれているように思える。これはこれで、現在の我々のものの考え方の基本にあるものとして、再認識しておくべきことなのかもしれない。

また、玉音放送のシーンもたびたび出てくる。日本が、本当の意味で戦争に終止符をうったのは、9月2日の降伏文書調印だと思っているのだが、一般には、8月15日の昭和天皇による玉音放送が、戦争の終わりとして、描かれる。一様に、ひたすらラジオから流れる昭和天皇の声に耳をかたむけている。そして、それが、戦争の終結を表象するものになっている。実際は、その後になって配達された新聞(その日の新聞は、玉音放送に配慮して放送の後に配達された)とか、その後のラジオ放送によって、ポツダム宣言受諾ということを国民は知ったはずなのであるが、そのことは描かれない。

この玉音放送のシーンで一番印象的だったのは、『カーネーション』(2011後)。放送をしんみりと聞いていた後、すぐにそれを忘れたかのように糸子は食事にとりかかっていた。

また、興味深かったのは、『ごちそうさん』で描かれた焼夷弾への対応。焼夷弾はバケツで水をかけたぐらいで消せるものではない、落ちてきたらひたすら逃げるしかない……このようにヒロインの夫は言って、それで、満州に左遷ということになった。こんなふうに焼夷弾のことを描いたドラマというのは、めずらしいのではないか。

『おひさま』(2011前)の、日米開戦のシーン。それまで日中戦争で重苦しかった生活がつづいてきて、昭和16年12月8日の日米開戦で、急に目のまえがあかるくなったように感じた……これは、各種の残された手記・日記など史料からもうかがえることだが、これをきちんと描いていたのが印象的である。

また、戦争が終わっての闇市の場面。これも、何度か登場している。一番最近の『とと姉ちゃん』(2016前)を見ていて気づいたこと。最初に闇市の場面になって、その全体像を俯瞰的にうつすところ。そのなかに、あきらかにそれとわかる(進駐軍の兵士を相手にしているのだろう)女性たちが、ちらりとではあったが、登場していた。これなど、実際の彼女たちの姿はどんなものだったのだろうかと思ったりするのだが、ドラマに出てくると、その服装や化粧などで、すぐにそれとわかるように描いてある。

近年のNHK朝ドラの戦争の描き方を見ていると、それぞれ番組の特色を出しているようにも思えるが、どうしても、ある種のステレオタイプをなぞっているような感じがしないでもない。

これを、プラスに考えれば、「記憶を風化させない」ということになるのかもしれないし、しかし、一方では、「一面的なステレオタイプの繰り返し」ということになるのかもしれない。

ありきたりのことになるが、やはり史料にもとづいて考証し、考えるということにつきるということになろうか。