ジェフリー・ディーヴァー『煽動者』2016-10-28

2016-10-28 當山日出夫

ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子(訳).『煽動者』.文藝春秋.2016
http://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163905402

ジェフリー・ディーヴァーの作品は、基本的に年に一冊のペースで翻訳が出るので、毎年、読むことにしている。これは、最初の『ボーン・コレクター』からの習慣のようなものになっている。いまでは、ちょっとたてば、文庫(文春文庫)が出るのだが、それをまたずに、単行本で読む。

というのは、この作者の作品は、その時代の有様を背景にしている。単純なミステリーというわけではなく、その時その時の時代背景・世相をふまえて書いてあるので、なるべく同時代に読んだ方が、その意味するところがよりよく理解できる。

今回の作品は、キャサリン・ダンスシリーズ。ただ、その「人間嘘発見器」としての側面は、この作品ではあまり表に出てこない。と思っていると、最後になって、ナルホド、ここにその伏線があったのか、ということになるのだが。

ジェフリー・ディーヴァーとしては、もうひとつのリンカーン・ライムのシリーズの方がメインと考えていいだろう。この意味で、それ以外のキャサリン・ダンスのシリーズを読むと、この事件を、リンカーン・ライムが担当していたら、どんな捜査を展開していることになるだろうか、というようなことが気になってしかたがない。まあ、これは、この作者のシリーズを読んできているものに共通する感覚かもしれいないが。

ところで、この作品、原題は、「SOLITUDE CREEK」。どう解釈すれば、これが『煽動者』になるのか、このあたりも興味深い。「SORITUDE CREEK」が日本語にそのまま訳したのがでは、その含蓄がつたわらないことが、作中でも述べられている。

時間に余裕があったら、ジェフリー・ディーヴァーの作品、初期の作品から、順番に読み直してみたいという気がしている。結論がわかっていても、再読するに十分にたえる、ものがたりとしての面白さをもっている。この作品も、最後の顛末がわかっていても、いや、わかっているからこそ、もう一度読んで、細部の描写を確認してみたくなる、そんな作品である。