山上浩嗣『パスカル『パンセ』を楽しむ-名句案内40章-』2016-12-07

2016-12-07 當山日出夫

名前は知っていても、「読んでいない本」である…パスカル『パンセ』。

この本については、『いまこそ読みたい哲学の名著』(長谷川宏)にも紹介してある。

やまもも書斎記 2016年11月18日
長谷川宏『いまこそ読みたい哲学の名著』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/11/18/8253270

この本では、中央公論社『世界の名著』版をおすすめとしてある。しかし、その後、岩波文庫から新しい訳が出ている。これは貴重な新訳であり解説なのであろうが、全三巻になると、ちょっと荷が重い。

パスカル/塩川徹也(訳).『パンセ』上・中・下(岩波文庫).岩波書店.2015
http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN4-00-336142-S

と思っていたところに、講談社学術文庫で、いい本が出た。

山上浩嗣.『パスカル『パンセ』を楽しむ-名句案内40章-』(講談社学術文庫).講談社.2016 (文庫オリジナル)
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062923941

この本は、『パンセ』のなかから、興味深い章句をとりだして、随意に註解を加えたという体裁になっている。どこから読んでもいいように作ってある。分量も手頃。300ページに満たない。これなら、挫折することなく、自在に『パンセ』の神髄を味わえるというものである。

「はじめに」を読むと、このような形式の本は、先例があるとのこと。

アントワーヌ・コンパニョン/山上浩嗣・宮下志朗(訳).『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』.白水社.2014
http://www.hakusuisha.co.jp/book/b203908.html

ところで、『パンセ』という書物は、パスカルが書き留めた未完の断片・章句を総合したもの。どれがどの順番で書かれたのか、それぞれの章句の関係をめぐっては、複雑な研究史があるらしい。簡略ながら、講談社学術文庫版に解説がある。これは役にたつ。

そのなかで、興味をひいたのが、WEBで、『パンセ』研究資料を総合しようというこころみ。電子版パスカル『パンセ』サイト、として次のHPが紹介してある。(p.26)

http://www.penseesdepascal.fr/

門外漢の私には、残念ながらこのHPについてコメントすることはできないのだが、『パンセ』の研究というような仕事には、やはりWEBの仕組みが向いているとべきなのであろうと思う。

それから、この本を読んで、重要だとおもったこと。「あとがき」であるが、それは、ある学生(人一倍熱心な学生)が、

「パスカルのような何百年も前の人の思想を研究することに、いったいどのような意味があるのでしょうか。」

と質問したらしい。(p.263)

これにたいして、著者は、このように返信したとのこと。

「(前略)世の中には、ただ単に読んでいておもしろいと感じる作品もありますが、研究という厳格な方法的操作を長年経てはじめておもしろさがわかる作品もあります。」(p.264)

これには同感する。

『パンセ』の場合は、フランスの古典になるが、日本の古典でも同じようなことがいえるはずである。日本語を母語としていれば、日本の古典の多くは、ある程度の註解をつければ、読める。『万葉集』など、そうかもしれない。しかし、『万葉集』を本当に理解しようとするならば、古代日本語、古代の文化、社会、歴史についての、厳格で緻密な研究にもとづかなければならない。

現代日本語で読めてしまうが故に、ある種の危険性がそこにあるともいえる。

研究という方法を経ることによってはじめて理解できる本当のおもしろさ、それを伝えていく必要がある。この意味において、人文学、そのなかでも、古典研究の分野の存在意義というのは、決して軽いものではないはずである。