『涙香迷宮』竹本健治2017-01-03

2017-01-03 當山日出夫

竹本健治.『涙香迷宮』.講談社.2016
http://kodansha-novels.jp/1603/takemotokenji/

昨年(2016)の、ミステリ(国内)ベストの作品である。
・このミステリーがすごい2017 第1位
・ミステリが読みたい 第2位
・週刊文春ミステリーベスト10 第3位
http://shukan.bunshun.jp/articles/-/6834

私個人の感想としては、たしかに、ことしのベスト10に入る作品であるとは思うが、1位かどうかは、微妙な感じ、といったところか。

碁盤にうつぶした死体からスタートする。そして、黒岩涙香についての蘊蓄が語られる(これは、これとして、非常に面白い)。「いろは歌」の謎。いわゆる「いろは歌」ではなく、新作の「いろは歌」の数々登場。謎の館。「いろは歌」の暗号。連珠。そして、嵐の山荘(これはもうミステリの定番である)。そこでおこる殺人事件。最後には、暗号の解明と、それにまつわる犯行動機。

ただ難点をいえば・・・謎の解明(犯人が誰か)が「論理」によっていない。ストーリーの運びとしては、自然な流れになっているのだが、「挑戦状」が出てくるような作りにはなっていない。これが、論理的に犯人をあてられるような作りになっていれば、という気がしないではない。

これが、論理的に犯人を絞り込めるようになっていれば、文句なしの1位であると、私は思う。とはいえ、十分に、現代ミステリの極致、その醍醐味を楽しめる作品である。特に、暗号ミステリとしては、凝りに凝ったつくりになっている。

蛇足をいささか。

私の記憶では、私のわかいころのこと(学生のころ)、週刊朝日が、「パロディ」を募集していたなかに、新作いろは歌もあったような気がするのだが、どうだったろうか。

それから、明治になってから作られた新作いろは歌「とりなくこゑす」の作、これは、たしか中学か高校の時に、ならって知っている。これは、いまはどうなんだろう。今の学生は知っているだろうか。

『いろはうた』(小松英雄)を、読み返してみたくなった。この本は出たときに買って読んで、どこかにあるはず。探してきて、再読してみよう。(日本語史の知識の整理ということにもなるし。)