『おそろし』宮部みゆき2017-01-12

2017-11-12 當山日出夫

宮部みゆき.『おそろし-三島屋変調百物語事始-』.角川書店.2008
http://www.kadokawa.co.jp/product/200802000594/

この本、文庫本もでているが、単行本で読んだ。古本である。オンラインで買って、格安だった。

最近、このシリーズの最新刊が出た。第四冊目である。

宮部みゆき.『三鬼-三島屋変調百物語四之続-』.日本経済新聞社.2016
http://www.sanki-mishimaya.com/

宮部みゆきのシリーズものなのだが、出版社は決まっていないようである。が、ともあれ、最新刊が出たので、さかのぼって読み直すことしてみた。実は、この作品『おそろし』、以前に読んではいる。しかし、その時は、このシリーズがここまで続くとは思っていなかったので、そのままにしてあった。その時に読んだ本は見当たらないので古書で買った。

多彩な方面に活躍している作家であることは言うまでもない。現代ミステリも書けば、時代小説も書く。本格も書けば、ファンタジーめいた作品もある。この『おそろし』は、時代小説として、強いてジャンルをわければ、ファンタジー、あるいは、ホラー、と言ったところか。といって、そんなに、恐ろしい化け物が出てくるというわけではない、摩訶不思議な事件についての、連作短編である。

宮部みゆきは、時代小説としては、本格は書かないようだ。また、シリアスにその時代を克明に描くということもしない。これまで読んだ作品としても、『ぼんくら』とか『孤宿の人』とか『桜ほうさら』とか、時代小説でありながら、どこか謎めいたところがあり、ファンタジーでもいうような要素をもっている。

私が宮部みゆきを読み始めたのは、いつのころだったろうか。印象に残っている作品としては、『幻色江戸ごよみ』、『蒲生邸事件』などがある。特に、『幻色江戸ごよみ』は、その語り口のうまさに感じ入ったものである。

それから、『昭和三十年代主義』(浅羽通明)で『模倣犯』が分析の対象になっていて、その浅羽通明の分析のするどさに関心しながらも、同時に、そのような作品を書いた宮部みゆきという作家に興味をもつようになった。その後、『ソロモンの偽証』も、単行本で出たときに買って読んだ。

浅羽通明.『昭和三十年代主義-もう成長しない日本-』.幻冬舎.2008
http://www.gentosha.co.jp/book/b1655.html

で、『おそろし』である。ふとしたことから、江戸の三島屋に住むことになったおちかが主人公。そのおちかのもとをおとずれて、何かしら不思議な話を語る。「百物語」の趣向である。

ただ、難をいえば、時々、ストーリーの展開に無理をしているかな、と感じないところがないではない。だが、そうはいっても、宮部みゆきのことである。その独自の語り口のうまさで、それを意識させることがない。とにかく、登場人物が納得するような形で、なんらかの決着をつけている。

宮部みゆきという作家、現代を舞台にしては、まことにシリアスな作品を書いている。『火車』などがその代表かもしれない。その一方で、どこか、ほんわかした感じの時代小説も書く。だが、それが、たんなるほのぼのとした感じで終わることはない。どこか、謎めいた、人間の心のふかい淵をのぞき見るようなところがある。

人間というものを描いて、現代で希有な作家のひとりであることは確かなことである。このシリーズについては、四冊目が出たのをきっかけにして、再度、読み直してみるつもりでいる。(買うだけは買ってそろえてある。たぶん時間もとれると思うので読めるだろう。)