『宗教学の名著30』島薗進2017-01-15

2017-01-15 當山日出夫

島薗進.『宗教学の名著30』(ちくま新書).筑摩書房.2008
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480064424/

このところ、ちくま新書の『~~の名著30』のシリーズを手にしてながめている。文字通り、眺めているであって、具体的にそこに掲載されている本を読もうというところまではいっていないのであるが。

この本もそのひとつ。学問的な研究分野としては、宗教学は、私の専門ではない。しかし、その周辺に属する領域のことを勉強してきた。そして、宗教学、あるいは、宗教についての書物というものも、ある意味で、ひろい意味での「文学」にふくめて考えてよいと思う。

「はじめに」のところを読み始めて、ちょっと驚いた。

「宗教学は発展途上の学である。」(p.9)

とある。つづけて、

「すでに成熟して果汁がしたたり落ちるような学問分野も、あるいはすでに衰退の相を示している分野もあると思うが、宗教学はまだ若い。青い果実の段階だ。というのは、その望みが大きいからである。(中略)「未来」の学とも言えるし、なお「未熟」とも言える。」

仏教学とか、キリスト教学とか、ゆうに千年以上の歴史があるのに、と思ってつづきを読む。

「まず、古今東西を見渡して、安心して「宗教」という言葉を使える段階に至っていない。「宗教」だけではない。西洋中心の宗教観にのっとって形づくられた諸概念を超えて、世界各地で通用する概念の道具立てがまだ明確ではない。一九六〇年代以来、「宗教」という概念が近代西洋の考え方の偏りをもっていることが鋭く批判されていて、それにかわる「宗教」理解が願われているが、なお堅固な基礎をもった方針が形成されていない。」(p.9)

このような理解の上で、古今東西の主教にかかわる古典的名著の解説となっている。

「Ⅰ 宗教学の先駆け」では、
空海 『三教指帰』
イブン=ハルドゥーン 『歴史序説』
富永仲基 『翁の文』
ヒューム 『宗教の自然史』

順次見ていくと、

ウェーバー 『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

とか、

柳田国男 『桃太郎の母』

などが、出てくる。つまり、宗教を、社会のあり方や民俗などとも関連させて論じようという姿勢がみてとれる。『プロテスタンティズム~~』などは、そう言われてみれば、たしかに、宗教を論じた書物であるとは理解される。

また、狭い意味での「文学」からも宗教にアプローチすることもできる。

バフチン 『ドストエフスキーの詩学の諸問題』

もあげてある。

文学作品を読むとき、その根底にある宗教観というものを抜きにして、本当の理解はないだろうと思う。ドストエフスキーしかり、トルストイしかり、そして、日本の『源氏物語』『平家物語』しかり、である。

これからの読書のてがかりとして、この本もそばにおいておきたいと思っている。