『吉本隆明 江藤淳 全対話』吉本隆明・江藤淳2017-03-13

2017-03-13 當山日出夫

吉本隆明・江藤淳.『吉本隆明 江藤淳 全対話』(中公文庫).中央公論新社.2017 (中央公論新社.2011 増補、改題)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/02/206367.html

この本は、2011年に、中央公論新社から、『文学と非文学の倫理』のタイトルで刊行。それに、吉本隆明インタビュー「江藤さんについて」、解説対談、内田樹・高橋源一郎を加えて、文庫化したもの。

「文学と思想」 1965
「文学と思想の原点」 1970
「勝海舟をめぐって」 1970
「現代文学の倫理」 1982
「文学と非文学の倫理」 1988

この本を読むまで、江藤淳と吉本隆明が、こんなにも多くの対談を重ねていることを、不明にも知らなかった。保守と左翼というイメージのある二人であるが、対談を読んでみると、非常にすんなりとお互いに意思疎通できているようである。

読んでの印象なのであるが、吉本隆明は「詩人」なのである、ということを強く感じた。吉本隆明は、詩人である。そして、江藤淳は、評論家である。

たとえば、次のような箇所。

(江藤)ただ、吉本さんがそういうものに対して批判をもっておられるのはわかるが、吉本さんの資質のなかにも、非常に詩人的・達人的なものがあると思います。それが小林秀雄に似ているか、中原中也に似ているかわからないが、とにかく吉本さんのなかで詩的絶対性のようなものを求める気持は、とても強いと思うのです。吉本さんの詩には、これがとても美しい形で出てくる。
(p.24)

このようなところを読むと、私も深く同意するところである。吉本隆明は、本質的に詩人なのである。今、世間一般の見方としては、評論家、あるいは、思想家というように考えるかもしれない。だが、吉本隆明が、本質的に詩人であると思ってみるならば、「共同幻想論」も、「大衆の原象」も、それなりに、納得できると思う。詩的直感を、詩としてではなく、評論のような形で表現しているから、ある読者にとっては、きわめて難解で読みにくいものになる。

このような意味で、つまり、詩人として吉本隆明が何を語っているか、読みながら付箋をつけた箇所としては、

(吉本)たとえば大江さんなんか、ちょっと『ヒロシマ・ノート』などを見ると、僕は文学者失格であるというようなことを考えます。思想家失格などとは、別に専門でないから、言わないわけですが。
(p.41)

上記の二つの引用は、「文学と思想」、1966年に『文芸』に掲載。対談は、その前年、1965年。

ここの引用した、1960年代の雰囲気として、文学者、詩人と、思想家、あるいは、評論家は、それぞれに、違った分野の人間として意識されていたことが読み取れよう。それが、現在、21世紀の今だと、これらの違いがあまり強く意識されることはないようである。

解説の対談に登場している内田樹などは、以前は、評論家、あるいは、フランス現代思想研究者、と呼ばれていたと思うが、最近の本では、思想家となっていたりする。私は、内田樹の書いていることに同意することもあるし、しないこともあるが、しかし、思想家だとは思っていない。

これが、吉本隆明、江藤淳の時代だと、文学者、評論家、詩人というのが、それぞれに独立した立場をたもっている。この時代の変化というのは、ある意味で、重要なことかもしれない。現代において、文学が何を語りうるのか、ということの問題にかかわってくるからである。また、現代における詩人的直感は何を洞察するのであろうか。さらには、現代において、批評とは何であろうか。

ともあれ、この本で、私は、ひさしぶりに、江藤淳の書いたものを目にした。今から、十数年間のあるとき、江藤淳の随筆を読みかけていた。そして、その訃報に接した。その時以来、読みかけの随筆に栞をはさんだまま閉じてしまった。その後、江藤淳の書いたものを読むことは、意図的に避けてきたように思う。

それほど、江藤淳の死は、私にとって衝撃的な事件であった。思い起こせば、高校生のころから、『夏目漱石』などを読んでいた。また、吉本隆明は、大学生になってから、とにかく読んだものである。今、その全集(晶文社)が出ているので、順番に買ってある。

このあたり、再度、江藤淳の書いたもの、吉本隆明の著作など、再読してみたいと思うようになってきた。確かに、戦後日本の文学の世界のなかでは、ともに屹立した仕事を残したと思う。それよりも、昔、若いときに読んだ本を、再度読んで味わってみたい、そのような気がしているのである。

その意味で、この『吉本隆明 江藤淳 全対話』は、手軽に読める文庫本として、それぞれの、詩人としての、評論家としての、資質をたどることのできる恰好の本である。

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