『豊饒の海』第四巻『天人五衰』三島由紀夫(その三)2017-04-07

2017-04-06 當山日出夫

つづきである。
やまもも書斎記 2017年4月5日
『豊饒の海』第四巻『天人五衰』三島由紀夫(その二)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/05/8444702

『天人五衰』を読んでいて、思わず付箋をつけた箇所がある。それは、

「酒が来た。」(p.105)

である。

この箇所の意味の分かるためには、三島由紀夫の『文章読本』を読んでいないといけない。幸いというか、たまたまというか、私が学んだ高校の教科書には、三島由紀夫の『文章読本』が掲載されていて、授業であつかわれていた記憶がある。そして、この箇所に付箋をつけることになった。

三島由紀夫が『文章読本』で言及しているのは、森鴎外。その『寒山拾得』のなかの一文、

「水が来た。」

にふれて、これを激賞している。余計な虚飾をはぶいて、そのものずばりを描写した名文であるということが述べてあったと憶えている。

たぶん、三島由紀夫は、『天人五衰』のこの箇所を書いたとき、自分の書いた『文章読本』、そのなかで言及した森鴎外について、意識していたと思う。

これは、浅田次郎にもおよんでいる。その代表作のシリーズ「天切り松」のなかの一つの作品で、この「水が来た」をつかっている。いま、本をしまいこんであるので、どの作品のどのページであったかを探すことはできないが、確かにあった。

そこを読んだとき、浅田次郎は、こんなところで、三島由紀夫を、あるいは、森鴎外を意識して、その文章を書いているのか、と思ったものである。浅田次郎は、直接的にせよ間接的にせよ、かなり三島由紀夫の影響をうけている。むろん、それに反発するというところをふくめてであるが。