『ひよっこ』あれこれ「お父ちゃんが帰ってくる!」2017-04-09

2017-04-09 當山日出夫

NHKの朝ドラ『ひよっこ』を見始めている。視聴率は、今ひとつといったところのようだが、面白い。これが、いつまで続くかわからないが、岡田惠和の脚本として、見ていきたいと思っている。岡田脚本の作品としては、これまでに、「ちゅらさん」「おひさま」と見てきている。これらは、面白かった。

ひよっこ
http://www.nhk.or.jp/hiyokko/

第一週「お父ちゃんが帰ってくる!」
http://www.nhk.or.jp/hiyokko/story/01/

見どころは、いろいろとあるだろうが、なんといっても、昭和39年……東京オリンピックの年である……の設定で、その農村の日常生活を細かに描いているいるところだろう。ヒロイン・みね子の家は、農協に借金がある。その返済のため、父(実)は、東京に出稼ぎに行っている。その父親に対して、みね子は、その気持ちをおしはかる。家族のもとに帰ってきてほしいと願う。

第一週を見た限りであるが、この脚本は、その時代……昭和39年ごろ……という時代の世相を、情感をこめて細やかに描き出そうとしているようである。作中で、登場人物の歌う歌、「高校三年生」「東京ドドンパ娘」「いつでも夢を」それから「庭の千草」など。時代を感じさせる選曲である。

また、みね子のおじさん(変なおじさん)のやっていた「ガオー」とか、稲刈りの時の「こりゃまた失礼いたしました」などの台詞は、まさに、その時代ならではのものだろう。

ただ、これらのネタは、私の年ならわかるのだが……どうだろう、これらのことが何の注釈、解説もなしに理解できるのは、おそらく、少なくとも50歳以上の年齢になるのではないか。あるいは、60歳以上かもしれない。

やまもも書斎記 2017年4月6日
『ひよっこ』のガオーは鉄人28号か
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/06/8446313

また、稲刈りのシーンで、アメリカの高いビルの話しになると、キングコングが映っていた。

気になったことを書いてみると、土曜日(4月8日)の放送。みね子一家の稲刈りのシーンで、「日本の原風景」という台詞がでてきていた。たしかに、一家そろって、稲をかる、それも手作業で、というのは、日本の農村に見られた光景かもしれない。しかし、それをもってして、「日本の原風景」と言ってしまうのは、どうだろうか。農村の農作業の光景も、歴史的、社会的にある流れのなかで、構成されていくものである。ドラマで描いたような、家族そろっての農作業というのは、あるいは、近代、それも、戦後の一時期のものかもしれない。

そして、強いていえば、「百姓=農民=米作」という図式的理解の枠組みの範囲を超えるものになっていない。おそらく、現在の歴史学の知見からすれば、この枠組みは、近代になってから作られた虚構であるといえるだろう。

このようなことを批判的に思ってはみるものの、それでも、作中にふと映しだされる農村の光景には、こころ癒やされるものがある。

そういえば、岡田脚本の前作「おひさま」では、毎回、数秒ではあるが、信州の風景が挿入されていて、それを見るごとに、こころなごんだものである。このような自然のなかで、ヒロイン・陽子たちが生活しているのかと感じたものである。「ちゅらさん」でも、沖縄の風景、街の様子が印象的であった。

「ひよっこ」では、茨城(奥茨城村)の農村風景が、これからも描かれることになるのだろうか。また、これから、舞台は東京に移るはずだが、その東京での生活をどのように描いていくのか、楽しみである。

このドラマに出てくる「出稼ぎ」「集団就職」ということば、私の子供のころまでは、実際にリアルなものとしてあった。それを、高度経済瀬長を経て、そして、バブルの崩壊の後、振り返って見て、どのように描くことになるのか。このドラマは、NHK版の『ALWAYS 三丁目の夕日』になるのかと、思って楽しみに見ることにしようと思っている。

「出稼ぎ」「集団就職」ということばは懐かしいだけではない。歴史的には、その底には、地方と都市の生活の格差、差別、蔑視、といったものと無縁であったわけではない。そして、私は、その時代のことを、まだ、かろうじて記憶に残している。それを、そのことを知らない若い世代の視聴者に、どう描いてみせるか、このあたりが、今後の見どころの一つになるかなとも思う。