『ブラタモリ』「祇園」2017-04-17

2017-04-17 當山日出夫

NHKの『ブラタモリ』、2017年4月15日は、「祇園」だった。

ブラタモリ
http://www.nhk.or.jp/buratamori/

祇園のぶらぶら足跡マップ
http://www.nhk.or.jp/buratamori/map/list70/index.html

さて、私の関心は、祇園の街の成立事情もさることながら、その表記にあった。

「祇園」の「祇」の字。以前のWindowsXPでは、「ネ氏」(しめすへん=ネ)であったものが、VISTA以降の機種では「示氏」(しめすへん=示)にかわった文字である。JISの規格でいうならば、「0208」と「0213」の違い、ということになる。

この祇園の表記については、かつて、訓点語学会や情報処理学会(CH研究会)などで、研究発表したことがあるし、いくつか論文も書いている。

コンピュータの機種によって文字の字体が変わってしまう漢字である。では、京都の祇園の街では、実際にはどちらが使われているであろうか、ということで、現地調査したものである。結論だけ書いておくならば、いわゆる伝統的花街の文字としては、「ネ氏」の方である。ただ、最近では、コンピュータ文字の影響をうけた、「示氏」の他に、誤字とされる「祗園」の表記もないではない。いや、これは、誤字というよりも、古くは江戸時代の浮世絵などにも事例を求めることができる、伝統的な漢字であるともいえる。

このような関心で、この番組をみて気のついたことは次の二点。

第一に、NHKの番組では、徹底的に「ネ氏」の方を使っていたということ。番組中の画面に表示される「祇園」の漢字は、すべて「ネ氏」の方であった。「示氏」は、まったく使われていなかった。

私は、この番組を、字幕表示で見ていたのだが、その字幕の漢字も、「ネ氏」の方を、つかっていた。ちょっとデザインがおかしいなと感じたのは、これは、わざわざ作字してつくったものとおぼしい。

なお、上記にリンクしてあるNHKの番組HPでの表記も、「ネ氏」の方になっている。

第二に、「花街」の読み方である。番組では、一貫して「かがい」と言っていた。「はなまち」とは言っていなかった。

日本国語大辞典(ジャパンナレッジ)で、「はなまち」を検索すると、見出しとしてはあるが、用例はない。「かがい」の方は、狂歌・徳和歌後万載集(1785)が初出例としてある。

私の世代なら記憶にある歌。
「円山・花町・母の町」
作詞 神坂薫
作曲 浜圭介
唄 三善英史

http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=31656

https://www.youtube.com/watch?v=tIv4TbqzoqM


この歌のなかでは、はっきりと「はなまち」と言っている。

以上の二点が、『ブラタモリ』「祇園」の回を見ていて、国語学の観点から興味関心のあった点である。もちろん、花街としての祇園がどのようにできたか、という観点からも面白い番組であったことはいうまでもない。かつて四条通に面していた花街が、そこに市電を通すことによって、横においやられて今の祇園、特にその南側のエリアを構成することになったという経緯は、非常に興味深かった。

Windows10が出て、しばらくになる。もう、XPのコンピュータ文字を目にする機会はすくなくなった。それをふまえての、祇園の表記の再調査など、そろそろ計画しなければならないと思っている。