『うたごえの戦後史』河西秀哉2017-05-19

2017-05-19 當山日出夫(とうやまひでお)

河西秀哉.『うたごえの戦後史』.人文書院.2016
http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b241570.html

NHKの朝ドラ「ひよっこ」を見ている。ヒロイン・みね子たちの勤める工場には、合唱部がある。これには、社員は、なかば自主的に、なかば強制的に参加させられるようである。

はじめてみね子たちが、会社にやってきた時には、歓迎のコーラスがあった。「手のひらを太陽に」だった。それから、みね子たちも参加してうたっていた。ここでは、「トロイカ」が歌われていた。

私の世代(昭和30年生)では、さすがに、歌声喫茶の体験はないのであるが、しかし、歴史的な知識としては、そのようなものがあったことは知っている。番組でも、ナレーションで説明があった。

戦後、多くの「日本人」「国民」が歌をうたっていたといえるだろう。もちろん、学校での音楽の授業の延長ということもあるのかもしれないが、それだけではなく、職場などを単位として合唱団を組織するということが、ひろくおこなわれていた。

この本は、このような戦後の日本の合唱のありかたをあつかった本。

私が注目したのは、次の二点になる。

第一には、戦後の合唱ブームとでもいうべきものは、戦後になってから作られたものではなく、戦前からの連続性があるという指摘。太平洋戦争中、日本国民の一体感を高めるために、合唱がよくおこなわれていたという。この側面、戦前からの連続性のうえに、戦後の合唱をとらえる視点というのは、重用だと思う。

第二には、戦後の合唱の隆盛には、下から自然発生的に生まれた側面と、逆に、上から組織してつくった側面と、両方があるという指摘。これも、いわれてみれば、なるほどと納得のいくことである。ただ、自発的に始まったというものではないようであるし、同時に、上からの命令だけで組織されたというものでもない。両方の動きが相まって、合唱ということがおこなわれた。

本書の帯には、「民主主義はうたごえに乗って」とある。まさに、戦後日本の民主主義……みんなで共同してひとつの仕事をなしとげる……は、合唱に象徴されるといってもいいかもしれない。

以上の二点が、私が読んで特に気になったところである。そのほか、本書には、「うたごえ運動の歴史」とか「おかあさんコーラスの誕生」など、興味深い考察がなされている。

うたごえ運動……これはなにがしか左翼的なものではあるのだが……において、日本にもたらされたものとして、ロシア民謡がある、とある。「ひよっこ」でも、職場の合唱団では、「トロイカ」を歌っていたのを思い出す。番組のナレーションでは、シベリア抑留からの帰還者が、日本にもたらしたと説明があった。

日本でロシア民謡が人びとの合唱曲としてうたわれてきたその背景には、歴史的な背景があることがわかる。「トロイカ」は、私の子どものころ(小学校のころ)、よく耳にした記憶がある。この曲が日本で歌われる背景があることを知ってみると、いろいろ感慨深いものがある。

さて、今、合唱はどうなっているだろうか。学校を単位としての合唱はいまだにつづいている。コンクールもある。だが、その一方で、音楽の享受という面では、限りなく「個」にちかづいているともいえそうである。iPodやスマホなどでひとりで聞く音楽が、今の音楽の聴き方の主流であろう。

この本は、合唱というものについて、それなりの歴史があるということを教えてくれるいい仕事であると思っている。