『ひよっこ』あれこれ「椰子の実たちの夢」2017-05-21

2017-05-21 當山日出夫(とうやまひでお)

ひよっこ
http://www.nhk.or.jp/hiyokko/index.html

ひよっこ 第7週 椰子の実たちの夢
http://www.nhk.or.jp/hiyokko/story/07/

岡田惠和脚本の特色のひとつといえるかもしれないのは、主人公(ヒロイン)以外の登場人物を丁寧に描くことにあるだろう。この週は、そんな特色がいかんなく発揮された展開であった。

「椰子の実」は、島崎藤村作詞の歌『椰子の実』からとったものである。この歌を、職場のコーラスで合唱していた。これについては、別に書いた。

やまもも書斎記 2017年5月19日
『うたごえの戦後史』河西秀哉
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/05/19/8565235

やまもも書斎記 2017年5月20日
『椰子の実』の歌詞を誤解していた
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/05/20/8567357

この週は、みね子よりも、脇役たちのことを描いていたと見るべきかと思う。

第一に、澄子。故郷から出稼ぎに出てきてはいるが、帰るべき故郷というわけではないようだ。故郷から手紙も来ない。もし、故郷に帰っても自分のいる場所があるわけではない。なつかしく思い出すのは、ばあちゃんのこと。

そんな澄子の姿が見えない。仕事がおわってから、どこかに行ったのかもしれない。みね子たちは、その行方をもとめて上野駅にむかう。結局、澄子は、銭湯に行っていただけなのだが、それを心配するみね子や愛子たちの、気持ちが丁寧に描かれていた。

第二に、時子。女優になる夢を持って東京に出てきた。NHKのオーディションをうけるが、落ちてしまう。そんな時子のことをきづかって、みね子は、三男と一緒に銀座にでかける。

同じ故郷から東京に働きに出てきた若者たちの友情というべきものであろう。

第三に、故郷に残っている母たち。ナレーション(増田明美)は、「女子会」と言っていた。それぞれに、家庭の事情がことなり、子どもたちも個性がある。その母たちも、また、それぞれに子どもへの思いは異なっている。しかし、故郷を離れている子どもへの思いには、共通するものがある。

以上の三点にあるような、脇役とでもいうべき人物の気持ちを、細やかに描いていたのがこの週の見どころであろうか。脇役的登場人物の個性をきちんと描き分けているのが、このドラマのいいところだと思ってみている。

ところで、最後、土曜日の放送で、みね子の心の声が言っていた……だんだん父親のことを思うことが少なくなってきている……それだけ、東京での生活に慣れ親しんできているということなのだろうが、東京に出てきたばかりころとは、気持ちの持ち方も変わってきているようだ。

この週は、失踪した父親を探すというシーンはなかった。そのかわりに、最後のみね子の心の声で、父親への思いを語っていた。このドラマ、失踪した父親の存在が常にどこかにひそんでいる。最終的に、どのような決着になるか。たぶん、みんな笑顔で終わることになるのだろうと予測するが、その結末のつけかたが、今から期待される。

なお、この週のタイトルが「椰子の実たち」と複数になっているのは、孤独な思いでただよっているのはみね子だけではなく、職場の仲間たち、それから、故郷にいる家族をふくめてのことだと理解しておきたい。