『ジェルミナール』ゾラ2017-08-05

2017-08-05 當山日出夫(とうやまひでお)

ゾラ.河内清(訳).『ジェルミナール』.「世界の文学」23.中央公論社.1964

ゾラの作品を読んでおこうと思って探してみると、昔の中央公論社の「世界の文学」にはいっていることがわかった。ネットで古本で買った。かなり安かった。もう、このような「世界の文学」というようなシリーズ自体が、価値がなくなっているのかもしれない。

読んで思ったことは……これは、日本でいえば、まさに「プロレタリア文学」である、ということ。それから、「世界の文学」のシリーズの中にゾラは、この一巻だけであるが、それをまるごとつかって、『ジェルミナール』を収録してある、これは、やはりその時代を感じさせる編集だな、ということ。

フランスの地方の炭坑が舞台。そこではたらく炭鉱労働者の生活。この描写は、『居酒屋』を書いたゾラならではのものだと感じさせる。下層の労働者階級の描写である。それをリアリズムの手法で、綿密に描いてある。

そこでおこるストライキ、その鎮圧、それから、炭坑での落盤事故(事件)、そして、その事故からの救出劇。

これが書かれた時代は、社会主義の正義が唱えられていた時代である。また、翻訳された時代……中央公論「世界の文学」の時代……マルキシズムは、正義であった。

だが、もはや、ベルリンの壁の崩壊を経て、社会主義国は崩壊してしまっている。マルキシズムを正義とイコールで考える時代ではないだろう。そのような時代の変化を感じる。

もちろん、この作品自身、ゾラの書いたものだけあって、炭鉱労働者の生活やストの様子、落盤事故への対応など、綿密に描いてあるし、ドマラチックなもりあがりもある。これはこれとして、十分に読めるものである。

しかし、この作品が基底にもっているところの社会主義の正義とでもいうべきものは、すでにこの世界から消えてしまっている。今の21世紀の時代になってから読んでみると、このような作品を文学として読んでいた時代があったのだな、ということに、その時代の変遷、時の移り変わりに、感慨を感じる。

そして、ゾラは、『居酒屋』『ナナ』につらなるものとして、このような作品も書いていたのか、と認識を新たにする。この作品にみられるような社会正義の感覚のもとに、かのドレフェス事件のことがあったのかとも、思ってみたりもする。

たぶん、この作品は、今後、忘れ去られていくことだろうと思う。だが、それは、時代の流れである。とはいえ、このような作品を文学として読んでいた時代があったということは、まだ、私の世代の感覚としては、共有することができるうちにいる。たとえ、それが、今では通用しない社会主義の正義というべきものであったとしても。