『鳩の撃退法』佐藤正午2017-09-04

2017-09-04 當山日出夫(とうやまひでお)

佐藤正午.『鳩の撃退法』(上下).小学館.2014
https://www.shogakukan.co.jp/books/09386388
https://www.shogakukan.co.jp/books/09386389

佐藤正午は、今回(第157回)の直木賞である。その受賞作の前に書いた小説である。受賞作『月の満ち欠け』については、また別に書くことにして、今日はこちらの小説について、いささか。

本の帯を見ると「第6回山田風太郎賞」とある。なるほど、山田風太郎の名を冠する賞に値するか……その期待は裏切られない。まさに、「語り」、メタレベルのフィクションでなりたっている小説である。

読み始めは、実に素直である。ごく普通の小説のようにはじまる。だが、それが、途中でいきなり視点が転換する。はて、この「小説」の主人公は誰なのか、あるいは、書き手は誰なのか……謎につきおとされる。そして、小説を読み進めていくにしたがって、その謎はより混迷をふかめる。今まで自分が読んできたのは、ほんとうのことなのだろうか、それともフィクションなのだろうか、(まあ、「小説」なのだから全体としてフィクションであるにはちがいないのだが)、そして今自分が読んでいるのは、「語り」のどのレベルのことなのか、このような混乱したなかにおいこまれる。だが、混乱するというよりは、この作者の「語り」のうまさにのせられて、いつどのように終わってもおかしくない「小説」の最後までつきあうことになる。

おそらくは、現代の小説におけるフィクションとは何か、というようなことを考えるとするならば、最重要な作品になるにちがいない。ただ、この作品の真似は、もうできないだろうな、と感じさせるところもある。それだけ、発想がずば抜けている。

このような作品を書いた作者が、直木賞をとるのは、なるほどとうなづける。直木賞のニュースを知ってから買って読んでみた。これは買って読んで損はない小説である。