『この世の春』宮部みゆき2017-09-08

2017-09-08 當山日出夫(とうやまひでお)

宮部みゆき.『この世の春』(上・下).新潮社.2017
http://www.shinchosha.co.jp/book/375013/
http://www.shinchosha.co.jp/book/375014/

宮部みゆきの本は、なるべく買って読むことにしている。特に好きであるということもないのだが、宮部みゆきは、今の「時代」を描いている作家であると思っているので。

この『この世の春』は、宮部みゆきの作家生活30周年の作品とのこと。新潮社も、気合いをいれて宣伝しているようである。

とはいえ、結論から書いてしまえば……この作品は、私は、あまり好きにはなれなかった。よくもわるくも、宮部みゆきの時代小説を代表するものとなっている。

強いてそのマイナス的な評価を書いていみるならば……読んでいって、作品がどの方向にむかっていくか、わからなくなる。だんだん脇道にそれていくかと思えば、それが本筋のように思えてきたりもする。最終的には、最後のところで、それまでの叙述がうまく回収されて、めでたく終わりになるのであるが。

この作品、読み始めて、まず、シャーマニズムの話しかと思う。と思って読んでいくと、多重人格、あるいは、憑依現象をあつかった作品のようになる。さらに読んでいくと、子供の連続誘拐事件が発覚する。いったいこの小説は、どちらの方向にむかってくのか、読んでいてふと不安になってしまう。

だが、最終的には、タイトル『この世の春』に示されるように、大団円で終わる。これは、これでいいのだろう。宮部みゆきのこのような小説作法が好きな人にとっては、傑作と読めるにちがいない。

しかし、以前の『幻色江戸ごよみ』のような、語り口のうまさで読ませるというべき作品を憶えていると、近年の時代小説は、何か物足りない。このごろのものとしては、私は、三島屋シリーズの方が好きなのであるが。

一方で、現代を舞台にしたミステリとしては、すぐれた作品を書いている。最近のものでは、『希望荘』があった。

ともあれ、『この世の春』という本は、上下二巻になる。じっくりと宮部作品、特にその時代小説の世界にひたって楽しむには、充分である。