『二都物語』ディケンズ2017-09-21

2017-09-21 當山日出夫(とうやまひでお)

チャールズ・ディケンズ.加賀山卓朗(訳).『二都物語』(新潮文庫).新潮社.2014
http://www.shinchosha.co.jp/book/203014/

この作品は、名前は知っていて、以前に読みかけたことがある(挫折した)本であるが、新しい訳が新潮文庫で出ているので、読んでみた。

いわく……世界中のベストセラー、フランス革命を背景にした悲恋……なのであるが、私の正直な読後感としては、いまひとつよく分からなかった。たしかに、ストーリーを追っていくことはできるのだが、そこに、文学的感銘というものを感じずに終わってしまった。

たぶん、これは、私の読解力のなさ、あるいは、背景としてあるフランス革命の歴史、その当時のフランスとイギリスの関係、これらのことに知識が無いせいなんだろうと思う。なにせ、フランス革命といえば、高校で習った世界史の授業をそれほど超えるものではないのだから。

ディケンズの作品としては、今、『荒涼館』が岩波文庫で刊行中である。さて、これも読んだものかどうか、ふとまよっている。

『二都物語』を読んだ印象としては、この小説は、小説として古いのである。19世紀、近代になってから完成した小説という文学のジャンルがあるとして、その一歩前にあるという印象がある。このあたりは、背景として描かれているフランス革命の描写に強く感じる。この作品が書かれた当時は、読者にとって当たり前のこととして書いてあるように読める。

それが、ろくにフランス革命についての知識の無い人間が読むと、なにかしらもどかしさのようなものを感じてしまう。

ところで、これは『風と共に去りぬ』を読むとき、南北戦争についての知識、解説が不可欠であるのに似ているかもしれない。ただ、『風と共に去りぬ』は、歴史的知識が無い読者にも分かるように書いてある。この意味では、『風と共に去りぬ』は、近代の小説としてのスタイルをそなえたものになっているということなのであろう。

だが、『二都物語』では、この近代の小説としてのスタイルがまだ成立していない前の作品である、そのように感じさせるところがある。面白い作品であることは理解できるつもりだが、それを味わうことはできなかった本である。これから、機会があれば、再度、読んでみることにしたい。