『月と六ペンス』サマセット・モーム2017-09-22

2017-09-22 當山日出夫(とうやまひでお)

サマセット・モーム.金原瑞人(訳).『月と六ペンス』(新潮文庫).新潮社.2014
http://www.shinchosha.co.jp/book/213027/

世界文学の古典、名作の読み直し。読んでみたのは、『月と六ペンス』である。

読んだのは新潮文庫の新しい訳本である。調べてみると、他にも、岩波文庫や、光文社古典新訳文庫などで、新しい訳がでている。

読後感はというと……とにかく面白い。いっきに読んでしまった。長編といっていい長さの小説であるが、いっきに読ませる面白さがある。

この小説、モデルとして、ゴーギャンが設定されていることは、周知のことだと思う。ゴーギャンの作品は、かなり若い頃……高校生のころだったか……京都の、市立美術館だったか、国立近代美術館だったかで、展覧会があったのを見に行ったのを憶えている。南洋の風景や人物画が、印象深かった。

とはいえ、この小説『月と六ペンス』は、特にゴーギャンを意識しなくても、あるいは、ゴーギャンについての知識がなくても、充分に楽しめる。

今日的な視点、価値観で言ってみるならば、人生の価値とは何か、という問いかけの小説である。いったい何のために人は生きているのか、生きるに価する人生とはどんなものなのか、読み終わったあとに考えさせられる。

小説は、いくつかのパートに分けられると思うが、なかでも、フランスでの部分が面白い。妻のある男との三角関係なのだが、情痴のもつれという感じの部分。それが、主人公(ストリックランド)に、なんとなく感情移入して読んでしまう。そして、結果として、妻を奪われたかたちになる男についても、なんとなく、その気持ちに共感してしまう。

主人公(ストリックランド)の行動は、非条理である。芸術至上主義というのとも、ちょっと違う。が、自分の人生を芸術にささげる生き方を選んだ人生ではある。この主人公の生き方に、なんとなく違和感をいだきつつも、最後のシーンになると、深い感銘を覚えることになる。

夏休みの一日をつかって、この小説を読んで、小説を読むたのしさ、文学のたのしさ、というものを満喫した気がする。

ただ、これも、私自身が人生のこの年になって、読んでみたから感じることでもあろう。主人公の生き方を、そのような人生の選択もあり得ることのひとつとして、距離をおいた立場から眺めることができる。これが若い頃であったならば、主人公の生き方に、強く共感するか、逆に、反発を感じるか、であった。このような小説の読み方ができるようになったというのも、自分自身で年をとったのだなと、感じるところでもある。

モームは、また短編小説の名手としても知られている。また、長編『人間の絆』もある。これからの読書の楽しみである。

追記 2017-09-23
この続きは、
やまもも書斎記 2017年9月23日
『月と六ペンス』サマセット・モーム(その二)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/09/23/8681898