『ジゴロとジゴレット』サマセット・モーム(その二)2017-10-16

2017-10-16 當山日出夫(とうやまひでお)

続きである。
やまもも書斎記 2017年10月14日
『ジゴロとジゴレット』サマセット・モーム
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/10/14/8704863

サマセット・モーム.金原瑞人(訳).『ジゴロとジゴレット-モーム傑作選-』(新潮文庫).新潮社.2015
http://www.shinchosha.co.jp/book/213028/

この短編集の中で、印象に残る作品はいくつかあるが、そのなかで、「征服されざる者」についていささか。

この作品は、第二次世界大戦のフランスが舞台である。侵攻してきたドイツ軍の兵士とフランスの娘とのつきあいがえがかれる。

第二次世界大戦のヨーロッパというと、どうしても、ドイツ=ナチス=悪、それに対して、抵抗した側=善、という図式でとらえがちである。だが、ドイツ軍は、国家として戦争をしていたのであり、中には、一般の兵士もいた。いや、そのような兵士の方が多かったのだろう。

では、その侵攻していった先の国……この場合はフランスで……どのようにしていたのだろうか。その土地の人びとと、どのようにかかわっていたのだろうか。

このような視点でみると、「征服されざる者」はきわめて興味深い。

結果は、決してハッピーエンドではない。ある種の「おち」といっていいか、非常に印象的な結末でおわっている。だが、小説だからこのような結末になってはいるけれども、別の展開もあり得たのかもしれない。

また、現代の我々は知っている……もし、別の結末があり得たとしても、戦後の様々な社会情勢の中で、登場するドイツ軍兵士と、フランスの娘は、決して幸福になることはなかったであろうことを。であるならば、この小説のような結末が、むしろよかったということになるのではないか。

モーパッサンは、普仏戦争の時代に翻弄される人びとを描いた。モームは、この作品で、第二次世界大戦という大きな時代の流れのなかで、生きた人びとの姿を哀切をこめて描いているように思える。無論、小説としても、とてもうまい。『月と六ペンス』などは、時代の流れから超然としたところにある人物像を描いているように思える。だが、この作品は、そうではなく、時代の流れの中にある、そのようにしか生きられない人間の有様を、するどい人間観察の目で見ているようである。

第二次世界大戦を舞台にした世界の文学から、何か選ぶとなると、この作品ははいるのではないだろうか。

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