『かわいい女・犬を連れた奥さん』チェーホフ2017-10-19

2017-10-19 當山日出夫(とうやまひでお)

チェーホフ.小笠原豊樹(訳).『かわいい女・犬を連れた奥さん』(新潮文庫).新潮社.1970(2005.改版)
http://www.shinchosha.co.jp/book/206503/

モーパッサン、モームと短篇を読んで、次に手にしてみたのが、チェーホフの短篇。これも、若い時に読んでいるような気がするのだが、今となっては、さっぱり忘れてしまっている・・・

チェーホフを読んでおこうと思ったのは、モームの『モーム短編選』(上)岩波文庫版の解説に次のようにあるからでもある。

「けれども近代の短篇に二つの大きな系譜を認めることが慣例的に行われている。そしてロシアのチェーホフとフランスのモーパッサンがそれぞれの代表とされている。前者が抒情的で一つのムードとか人生の漠然たる印象を伝えるのに対して、後者は理知的で話しの面白さを身上としている。」(p.320)

「イギリス文学におけるチェーホフ流の代表者はキャサリン・マンスフィールド、モーパッサン流のそれはモームというのが定説なっている。」(p.320)

そう言われてみて読んだせいかもしれないが、確かに、チェーホフの作品には、「おち」がない。ただ、なんとなく人生の流れのなかから、一コマをきりとって描写してあるような印象が残る。そして、そこにあるのは、人生の一瞬のなかに永遠を見る視点とでもいえようか。

『かわいい女・犬を連れた奥さん』であるが、収録してあるのは、

「中二階のある家」
「イオーヌイチ」
「往診中の出来事」
「かわいい女」
「犬を連れた奥さん」
「谷間」
「いいなずけ」

である。私が読んで、印象深かったのは、「中二階のある家」の情景描写といっていいであろうか。抒情的な風景描写がなんとも印象に残る作品である。

それから「谷間」。「母なるロシアは広いんだ!」(p.229)のせりふが、心に残る。

今、普通に売っているチェーホフの作品というと、岩波文庫版の『ともしび・谷間』、『六号病棟・退屈な話』がある。それから、中央公論の「世界の文学」のチェーホフの巻が、安くで古本で買える。

もちろん、戯曲『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『桜の園』『三人姉妹』も、読むべきものとしてある。これらも順番に読んでいきたいと思っている。