『新版 吉本隆明1968』鹿島茂2017-11-20

2017-11-20 當山日出夫(とうやまひでお)

鹿島茂.『新版 吉本隆明1968』(平凡社ライブラリー).平凡社.2017 (平凡社新書.2009)
http://www.heibonsha.co.jp/book/b314295.html

以前、平凡社新書で出ていた本が、新版として、平凡社ライブラリーで刊行になったもの。前のものも持っているかとおもうのだが、探すのが大変なので、新しい本で読んでみた。

面白い本を読んだという感想である。

この本については、次の二点を書いておきたいと思う。

第一は、吉本隆明の入門・解説書として、非常によくできているし、興味深い内容になっていることである。

吉本隆明については、いまだに数多くの論評がなされている。全集(晶文社)も刊行の途中である。まだ、その評価が歴史的に定まったということではない。

そのなかにあって、特に初期の吉本隆明……それを著者は「1968」ということばで象徴的に表しているが……について、丁寧にその著作を読み解きながら解説してある。

特に高村光太郎への言及が詳しい。(読んでいて、これは、吉本隆明論ではなく、高村光太郎論ではないかと感じてしまうぐらいである。)だが、同じ引用を必要に応じてくりかえし、難解な箇所については、適宜パラフレーズするというようにして、わかりやすく解説してある。

吉本隆明といえば、必ず出てくる「大衆の原像」について、なぜ、吉本隆明がそのような概念を提示するにいたったのか、そのプロセスを、初期の論考を読み解きながらおっていく。これを読んで、私も、なるほど、と納得のいったところもある。

第二に、そのように吉本隆明を読み解くキーとして、出自・世代論から論じていることである。中流下層階級からの知的な脱却、それを、明治・大正期の文学者たち……高村光太郎であり四季派の詩人たちであり……の経験と照らし合わせ、また、著者(鹿島茂)自身の体験と照らしながら、その持つ意味を考えていく。

その概要は、次のようになるだろうか。

「高村光太郎に仮託して語られた階級離脱の覚悟と止揚の意気込みは、「名状し難い寂しさや切なさの感じ」をもってそこを離脱した者でなければわからないものだったのです。」(p.359)

まさに吉本隆明が高村光太郎に仮託して語ったことをなぞるように、著者(鹿島茂)は吉本隆明について語っている。

ざっと以上の二点が、この本を読んで、重要かと思うところである。

たぶん、吉本隆明を考えるとき、いつ頃、どのようにして、その名前に接して読むようになったのか、によって、その意味は決定的に異なることになるだろう。著者(鹿島茂)は、1949年の生まれ。タイトルの1968年の時代には、大学生であった。それに先だって、高校生のころから、吉本隆明の読書体験があった。

なお、平凡社ライブラリー版の解説を書いているのは、内田樹。解説を読むと、著者(鹿島茂)より、大学では二年後になるという。が、これも、高校生のころに吉本隆明を読んでいる。

だが、私が、吉本隆明を読み始めたのは、大学生になってからであった。1955年の生まれだから、鹿島茂や内田樹よりも、すこし後の世代になる。それでも、その当時の大学生にとっては、一種の「必読書」であった。まあ、中には、吉本隆明に触れずに過ごしている学生もいたのではあるが。

大学のキャンパスは落ち着きをとりもどしていた。吉本隆明は、すでに勁草書房版の著作集があった。『言語にとって美とはなにか』などは、著作集版で読んだのを憶えている。

ただ、その時、すでに、国文学、国語学に自分の勉強の目標を定めていた私にとっては、『言語に……』は、そのままストレートに読むというよりも、日本語について論じた本の中の一つとして読んだことにはなるのだが。

そして、『共同幻想論』をまともに読まずにきていることは、すでに書いた。

やまもも書斎記 2016年11月2日
ちくま日本文学全集『柳田國男』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/11/02/8240413

晶文社版の全集は、既刊分は買ってある。時間ができたら、初期の「高村光太郎」など、読んでおくことにしようかと思っている。やはり、私にとって、吉本隆明は、きちんと読んでおきたい人のひとりなのである。

また、この本で論じられている、出自・社会的階層の観点からいえば、自分の生涯をかえりみて(まだ、かえりみるというほどの年ではないかもしれないが)、深く共感するところがある。この『吉本隆明1968』という本は、吉本隆明論でありながら、すぐれた出自・社会的階層論として読むこともできる。

出自・社会的階層論という意味において、今日のように、両極端に社会階層が分裂しているような時代にあっては、改めて読まれていい仕事として、この『吉本隆明1968』はあると思うのである。

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