『井筒俊彦の学問遍路』井筒豊子2017-12-07

2017-12-07 當山日出夫(とうやまひでお)

井筒豊子.『井筒俊彦の学問遍路-同行二人半-』.慶應義塾大学出版会.2017
http://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766424652/

私が、慶應義塾大学に入学したとき、すでに、井筒俊彦は慶應を去ったあとだった。

だが、折りにふれて、その名前を耳にすることがあった。

井筒俊彦は、池田彌三郎と、慶應の予科の同期である。同じとき、文学部にかわっている。池田先生が、講義のとき、なにかのひょうしに、「井筒ってのは、…………」と語っておられたのを、今でも憶えている。井筒俊彦のいわく、自分のような人間は、スコラスティックであるのだという。ペダンティックではなく。であるらしい。(このところ、記憶だけをたよりに書いている。)

『ロシア的人間』など読んだのは、学部の学生の時だったろうか。北洋社版である。この出版社は、もう今はない。

その後、イランの革命があって日本に帰国してからの著作は出るたびごとに買っていた。いや、その前に、『思想』(岩波書店)の掲載でも読んだ。岩波ホールの講演会のときは、申し込んだ。こんなにもすぐれた知性がこの世の中に存在するのかと、驚きながら話しに聞き入ったのを憶えている。

『井筒俊彦の学問遍路』は、その夫人が書き残したもの。主に、慶應を去って国外に活動の場をもとめていた時代のことが回想してある。

読みながら付箋をつけた箇所。

「井筒の晩年のことですが、中央公論社の平林孝さんが、「先生、こんな奥様とご一緒でおもしろいでしょうね」とおっしゃったのを覚えています。おしゃべりは確かにたくさんしたのですが、本当のおしゃべりはあまりしていなくて、今となっては私も後悔しています。結局、井筒が亡くなってから、私は井筒を何となく理解し始めたのです。」(p.64)

今年の夏休み、井筒俊彦の著作のうち、日本に帰国してからのもの……主に、東洋哲学全般を論じたようなもの……を、まとめてよみかえしてみた。読むほどに、その思索の世界にひきこまれていく。新しい慶應義塾大学出版会版の全集も買ってそろえてはいるのだが、昔、買った岩波書店などの単行本で読んだ。その本が出た当時の雰囲気を感じ取りたいと思ってのことである。

これからの読書として、井筒俊彦というすぐれた日本の知性を自分なりにかみしめながら本を読んでいきたい。直接学ぶということはかなわなかったものの、少なくとも同じ時代に生きていたというのは、私の人生にとって幸運なことであったと思う次第である。