『武揚伝 決定版』(上)佐々木譲 ― 2017-12-21
2017-12-21 當山日出夫(とうやまひでお)
佐々木譲.『武揚伝 決定版』(上)(中公文庫).中央公論新社.2017 (中央公論新社.2015)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/11/206488.html
旧版のときからその存在は知っていたのだが、なんとなく読みそびれてしまっていた本である。最初の本が出たのが2001年。このたび、文庫版で、改稿「決定版」が出たので買って読んでおくことにした。
三巻ある。まずは、「上巻」からである。
佐々木譲は、『エトロフ発緊急電』などの戦記もの、それから、『警官の血』などの警察小説の作家として、親しんできた。その佐々木譲が、榎本武揚を主人公として描いた、幕末・維新期の歴史小説である。
私は、榎本武揚については、通り一遍の知識しかもっていない。戊辰戦争における幕府軍としてである。あるいは、幕末から明治にかけてのテクノクラートというべきかもしれない。
その榎本武揚について、「上巻」では、蝦夷地探検、長崎の海軍伝習所のころのことからはじまって、オランダ留学まで描いている。幕府がオランダに発注した軍艦・開陽丸が、日本にむけて出航するまでである。
「上巻」までで描かれているのは、幕末の動乱の時期を背景にして、近代の国民国家としての日本、それも、その始まりの段階では、幕府、朝廷、反幕府に割れて戦う……幕末の動乱期……において、近代の国家とか、日本の国とかをどうかんがえているのか……この点については、まだ、さほど踏み込んで描いてはいない。主人公の行動の基本にあるのは、幕臣としての自己、そして、西欧列強諸国のなかで近代化を目標としなければならない、その時代にそこに生きている人間としての生きる目標のようなものである。それも、まだ、漠然としている。
「上巻」の後半は、オランダ留学である。オランダに留学しても、武揚は、西欧文明を謳歌するという立場をとるでもないし、無論、逆に、日本的・国粋的になってしまうということもない。冷静に、自分のおかれた立場……幕府からの留学生……を自覚している。そして、造船学、それに、国際法を学んで、日本に帰ることになる。
たぶん、このあたり、オランダで国際法を学んで帰国した幕臣という経歴が、その後の戊辰戦争における武揚の行動に、かなりの影響をあたえることになるのであろうと推測はしている。
それにしても、この作品における勝海舟の評価はひくい。おそらく、幕末・維新を描いた作品のなかで、勝海舟をもっとも低く評価して描いているのではないだろうか。幕府の海軍をつくったのは勝海舟、この一般的評価に対して、作者は、異を唱えるかのごとくである。おそらく、次の巻以降になって、幕末の動乱から、海軍の創設にいたる過程で、武揚がどのような行動をとることになるのか、描かれることになるのだと思う。
また、オランダという国についても、私はそんなに知っているわけではない。オランダとプロイセンの戦争、それから、共和制をとっていたものが王制にもどっているなど、この本を読んで知った。
たぶん、このようなオランダという国に留学していたということが、その後の、函館での戦いへとつながる伏線になってくるのではないだろうか。
この小説、随所に北海道への言及がある。武揚は幕臣として蝦夷地を探検している。緯度はヨーロッパ諸国と同じ。ただ、開拓されていないだけで、フロンティアとしての可能性……そのようなものとして、北海道を描いている。佐々木譲は、ある意味では、北海道の作家でもある。北海道を舞台にした小説としての一面ももっている。
幕末・明治期の小説として、私が読んで来たものとしては、無論のことながら、司馬遼太郎がある。それから、それと対極的な史観のもとにある山田風太郎の明治伝奇小説の一群の作品は、読んできた。司馬遼太郎でもない、山田風太郎でもない、佐々木譲ならではの、幕末・明治小説として、この続きを読むことにしよう。
佐々木譲.『武揚伝 決定版』(上)(中公文庫).中央公論新社.2017 (中央公論新社.2015)
http://www.chuko.co.jp/bunko/2017/11/206488.html
旧版のときからその存在は知っていたのだが、なんとなく読みそびれてしまっていた本である。最初の本が出たのが2001年。このたび、文庫版で、改稿「決定版」が出たので買って読んでおくことにした。
三巻ある。まずは、「上巻」からである。
佐々木譲は、『エトロフ発緊急電』などの戦記もの、それから、『警官の血』などの警察小説の作家として、親しんできた。その佐々木譲が、榎本武揚を主人公として描いた、幕末・維新期の歴史小説である。
私は、榎本武揚については、通り一遍の知識しかもっていない。戊辰戦争における幕府軍としてである。あるいは、幕末から明治にかけてのテクノクラートというべきかもしれない。
その榎本武揚について、「上巻」では、蝦夷地探検、長崎の海軍伝習所のころのことからはじまって、オランダ留学まで描いている。幕府がオランダに発注した軍艦・開陽丸が、日本にむけて出航するまでである。
「上巻」までで描かれているのは、幕末の動乱の時期を背景にして、近代の国民国家としての日本、それも、その始まりの段階では、幕府、朝廷、反幕府に割れて戦う……幕末の動乱期……において、近代の国家とか、日本の国とかをどうかんがえているのか……この点については、まだ、さほど踏み込んで描いてはいない。主人公の行動の基本にあるのは、幕臣としての自己、そして、西欧列強諸国のなかで近代化を目標としなければならない、その時代にそこに生きている人間としての生きる目標のようなものである。それも、まだ、漠然としている。
「上巻」の後半は、オランダ留学である。オランダに留学しても、武揚は、西欧文明を謳歌するという立場をとるでもないし、無論、逆に、日本的・国粋的になってしまうということもない。冷静に、自分のおかれた立場……幕府からの留学生……を自覚している。そして、造船学、それに、国際法を学んで、日本に帰ることになる。
たぶん、このあたり、オランダで国際法を学んで帰国した幕臣という経歴が、その後の戊辰戦争における武揚の行動に、かなりの影響をあたえることになるのであろうと推測はしている。
それにしても、この作品における勝海舟の評価はひくい。おそらく、幕末・維新を描いた作品のなかで、勝海舟をもっとも低く評価して描いているのではないだろうか。幕府の海軍をつくったのは勝海舟、この一般的評価に対して、作者は、異を唱えるかのごとくである。おそらく、次の巻以降になって、幕末の動乱から、海軍の創設にいたる過程で、武揚がどのような行動をとることになるのか、描かれることになるのだと思う。
また、オランダという国についても、私はそんなに知っているわけではない。オランダとプロイセンの戦争、それから、共和制をとっていたものが王制にもどっているなど、この本を読んで知った。
たぶん、このようなオランダという国に留学していたということが、その後の、函館での戦いへとつながる伏線になってくるのではないだろうか。
この小説、随所に北海道への言及がある。武揚は幕臣として蝦夷地を探検している。緯度はヨーロッパ諸国と同じ。ただ、開拓されていないだけで、フロンティアとしての可能性……そのようなものとして、北海道を描いている。佐々木譲は、ある意味では、北海道の作家でもある。北海道を舞台にした小説としての一面ももっている。
幕末・明治期の小説として、私が読んで来たものとしては、無論のことながら、司馬遼太郎がある。それから、それと対極的な史観のもとにある山田風太郎の明治伝奇小説の一群の作品は、読んできた。司馬遼太郎でもない、山田風太郎でもない、佐々木譲ならではの、幕末・明治小説として、この続きを読むことにしよう。
追記 2017-12-25
この続きは、
やまもも書斎記 2017年12月25日
『武揚伝 決定版』(中)佐々木譲
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/12/25/8754718
この続きは、
やまもも書斎記 2017年12月25日
『武揚伝 決定版』(中)佐々木譲
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