『湖畔荘』ケイト・モートン2018-01-19

當山日出夫(とうやまひでお)

ケイト・モートン.青木純子(訳).『湖畔荘』(上・下).東京創元社.2017
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010713
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488010720

今年の週刊文春のミステリベスト(海外)では、三位にはいっている。出た時に買ってはおいたのだが、積んであった。読んでおくべきと思って読んでみた。(ケイト・モートンは、『忘れられた花園』の時から知っている。)

すでにこの本については、いろいろ語られているだろうから、私なりに思ったことなど、いささか。

第一には、このような物語がミステリの世界でなりたっている、特に英国流のミステリの魅力である(作者はオーストラリアの人であるが、小説の舞台は英国に設定してある)。特に波瀾万丈の大活劇があるわけでもない。また、大胆なトリックが仕掛けてあるわけではない。

ある日、行方不明になった子供。その子供は、いったどうなったのか。この謎をめぐって、三つの時間軸で物語は進行する。そして、それが最後に見事に決着を見る。

このような物語としての厚みのある作品が、あまり日本のミステリにはないように思うが、どうであろうか。ミステリの背後にある、幅広い文学的な伝統の違いといってしまえばそれまでかもしれない。

第二には、この作品の主なモチーフになっているのが、第一次世界大戦。この戦争に、日本もかかわっているのだが、時代は大正時代。むしろ、国内の歴史としては、大正デモクラシーの時代として語られることが多い。平和な時代という印象である。しかし、この時代、ヨーロッパでは、戦争の時代であった。その戦争の記憶が、第二次大戦を経て後、21世紀の初頭にまで、人びとの生活に影をおよぼしている。

この小説を読んで、第一次世界大戦という戦争を直に体験したのがヨーロッパの人びとであることに、思いを新たにした次第である。

ざっと以上の二点が、この作品を読んで感じるところである。

ケイト・モートンは、その作品は出たときに買ってあるのだが、まだ読まずにしまってあるものがある。探し出して読んでみなければと思っている。ミステリを読んで、読書の楽しみを感じさせてくれる。これからの読書の楽しみの一つである。