『宿命の地』ロバート・ゴダード2018-02-15

2018-02-15 當山日出夫(とうやまひでお)

ロバート・ゴダード.北田絵里子(訳).『宿命の地』(上・下)(講談社文庫).講談社.2017
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062936620
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062936637

続きである。
やまもも書斎記 2018年2月10日
『灰色の密命』ロバート・ゴダード
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/02/10/8785539

このシリーズの三作目は、日本が舞台である。「1919年三部作」ということだから、日本でいえば大正8年になる。第一次大戦後、大正時代の半ばの日本。

(これは書いてもいいことだろうと思うが)やはりマックスは無事であった。でなければ、このような三部作になるはずがない。そして、日本での波瀾万丈の大活劇。東京のみならず、京都やその周辺地域が描かれる。読んでいてこれにはさほど違和感なかった。日本の事情についてきちんとリサーチしての執筆であることがわかる。

この第三部になってはじめてあかされる、マックスの出生の秘密。また、最後の方に出てくる、パリのあるシーンの回想が印象的である。

興味深いのは、この作品が、世界の歴史の中に日本をおいて見る視点をとっていることだろう。大津事件(ロシア皇太子の襲撃事件)、大隈重信襲撃事件など、日本近代の歴史的事件が、実は、世界の歴史のなかでどのような意味をもつものであったのか、その影にどのような陰謀があったのか、歴史ミステリならではの視点で語られる。

このようなことは、小説として読んでおけばいいのだが、中には、ふと気付かされる歴史的な指摘もある。第一次大戦で、日本は、太平洋の旧ドイツ領の島々の権益を獲得することになった。そのことが、太平洋において、日本とアメリカとの対立の遠因になる……後の太平洋戦争へいたるまで出来事としてであるが、さりげなく書いてある。しかし、この指摘はあたっているのではないだろうか。

外国の作家が日本を舞台にして書いた小説として読んでもよく書けていると思わせる出来映えになっている。大正時代の日本ならば、さもありなんという雰囲気をよく出してある。

しかし、どうしても気になる訳語がある。「ランタン」である。室内の照明につかうという設定で登場するのだが、これは、「ランプ」の方がいいのではないか。この訳語だけが、どうにも気になってしかたがなかった。

そして、この三部作の続編もあるようだ。マックスとレンマーは、ある約束を交わす。その約束を伏線として、次の展開になるのかもしれない。翻訳の出るのを楽しみに待つことにしよう。

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