『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン2018-02-24

2018-02-24 當山日出夫(とうやまひでお)


緑衣の女

アーナルデュル・インドリダソン.柳沢由実子(訳).『緑衣の女』(創元推理文庫).東京創元社.2016 (東京創元社.2013)
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488266042

やまもも書斎記 2018年2月19日
『湿地』アーナルデュル・インドリダソン
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/02/19/8790494

『湿地』に続けて読んだ。「このミス」では、『湿地』が2013年の4位。『緑衣の女』が2014年の10位である。が、読んだ印象としては、『緑衣の女』の方が、作品としての完成度が高い、というか、普遍性を持った作品になっている。

『湿地』は、あくまでもアイスランドという北欧の小さな国の、その国のなりたちの事情、制度などをふまえて、その国ならではの物語という話しであった。しかし、『緑衣の女』になると、アイスランドという国の制約をこえて、普遍的なある種の文学的感銘を与える作品となっている。

あるいは、現代文学において、「ミステリ」という形式でしか物語れない何かがあるとするならば、まさに『緑衣の女』は、「ミステリ」という形をとることによって、普遍的な何かをうったえる作品にしあがっている。この作品が、CWAゴールドダガー賞、ガラスの鍵賞、というのは納得できる。

この作品は、いくつかの物語の視点が重層してしる。郊外の住宅地で発見された人間の骨。それの調査にあたることになったエーレンデュル。そのエーレンデュルは娘のエヴァ=リンドと複雑な家族関係にある。人骨の発見されたサマーハウスにまつわる人びと。そして、これらの物語と平行して語られる、ある家族の物語。

ここに描かれるのは、家族の問題であり、家庭内暴力の問題であり、また、かつて、英国、米国の兵士の駐留していたアイスランドの歴史の物語でもある。だが、それが、アイスランドに固有の問題としてあるのではなく、現代の世界のどこでもあり得る問題として語られる。この小説は、現代世界に普遍的なテーマを掘り下げている。

アイスランドという小さな北欧の国の小説でありながら、世界文学となり得ている、そのような作品として、読まれるべきだろう。いや、この作品のテーマは、現代世界では、特に地域や国を選ぶということなく、普遍的なものになっているといってよい。

上質のエンターテイメントであると同時に、文学的にも優れた作品であると思う。

次は『声』を読むことにしよう。

追記 2018-03-03
『声』については、
やまもも書斎記 2018年3月3日
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/03/03/8797005