『流れ舟は帰らず』笹沢佐保2018-02-26

2018-02-26 當山日出夫(とうやまひでお)

流れ舟は帰らず

笹沢佐保.『流れ舟は帰らず-木枯し紋次郎ミステリ傑作選-』(創元推理文庫).東京創元社.2018
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488485115

編集は、末國善己である。

木枯し紋次郎……私ぐらいの年代(昭和30年生)より上なら、記憶にあるだろう。この作品が発表された当時の流行語……あっしにはかかわりのねえことでござんす……は記憶している。

そして、テレビドラマ。中村敦夫主演。これは、ほとんど見たと憶えている。さらに書けば、テレビドラマの主題歌「だれかが風の中で」(上條恒彦)は今でも憶えている。(自動車の中で聞いているCD……MP3に変換してSDカードにいれたもの……にも、この曲がある。)

だれかが風の中で
https://www.uta-net.com/song/6291/

私がこの原作の小説を読んだのは学生になってからである。文庫本で出たのを読んだ(調べてみると富士見文庫ということになるのだろうか)。その当時、なんということもなく読んでいた。特にミステリという感じはもっていないかったように記憶している。が、たぶん、その当時、文庫で買える範囲の作品は読んでいると思うので、ほとんどの作品は読んだのだろうと思う。

『流れ舟は帰らず』は、その「木枯し紋次郎」シリーズのなかから、ミステリ作品といっていいものを選んだアンソロジーである。

ミステリといっても、短篇であるので、フーダニットというわけにはいかない。登場人物はおのずと限られている。時代小説だからハウダニットでもない。読み始めれば、だいたい「犯人」はわかってしまうのであるが、それでも、どういう事情でその人物が「犯人」ということになるのか、そのあたりの描写は、実にうまいとしかいいようがない。これは「本格」といってもいいだろう。

以前に読んだことのある作品であるので、すでに「犯人」とかを憶えているということもある。だが、しかし、今になって読んでみて、そのストーリーの展開を記憶しているにもかかわらず作品に引き込まれるように読んでしまうということは、この作品の小説としての印象の深さ、たくみさでもある。

上述のようにミステリとしても優れているが、時代小説としてもいい。旅人、股旅、アウトロー……その世界で、旅から旅に生きざるをえない、一箇所に定住することを潔しとしない、孤高のヒーローのニヒルな生き方は、荒涼とした現代社会の中で生きている我々にも、何かしらうったえかけてくるものがある。今でも、この作品が読まれるには、確かに理由がある。調べてみると、「木枯し紋次郎」シリーズは、何度となく文庫版で出ているようだ。新しいところでは、光文社で出している。

春休みの時期、長編の重厚な小説など読むかたわら、ふと手にとってみるのにいい。楽しみとしての読書である。「木枯し紋次郎」シリーズは、良質のエンターテイメントである。

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