『声』アーナルデュル・インドリダソン ― 2018-03-03
2018-03-03 當山日出夫(とうやまひでお)

アーナルデュル・インドリダソン.柳沢由実子(訳).『声』(創元推理文庫).東京創元社.2018 (東京創元社.2015)
http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488266059
第二作目『緑衣の女』については、
やまもも書斎記 2018年2月24日
『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/02/24/8793366
アーナルデュル・インドリダソンの三作目である。この作品も、世の評価は高いようだ。
この本を読んで思ったことをまとめると次の二点になるだろうか。
第一は、これは家族の物語である。それも、いくつかの家族の物語が重層的に語られる。被害者となって発見された男性、その少年のときの生いたちにおいて、家族、特に父親はどんな存在であったのだろうか。もし、その父がそのようでなければ、被害者は、違った人生を歩んでいたのかもしれない。
それと平行して語られる、いくつかの家族。エーレンデュルと、その娘、エヴァ=リンドのこと。また、エーレンデュル自身の幼いときの思い出。また、エリンボルクが担当することになる、ある家族の事件。
この作品は、いくつかの家族の物語を重層的に語ることによって、21世紀の社会において、家族とは何であるのかを問いかけているように思える。この意味において、この作品は、ミステリという枠のなかにありながら、同時に、普遍的な問いかけの文学になっている。
第二は、この作品、シリーズとして書かれているので、エーレンデュルの視点で書いてある。だが、この作品で描きたかったことを書こうとするならば、警察の視点ではなく、犯人の視点から描いた方がよかったのかもしれない。
犯人も、また、ある種の家族の不幸を背負って生きてきた。それを背景に、なぜ、犯行にいたることになったのか、その心理の経緯を描いた方が、ずっと面白い作品になったにちがいない。
以上の二点が、この作品を読んで感じたところである。
アーナルデュル・インドリダソン、北欧、アイスランドの作家ということだが、近年、非常に人気があるようだ。その理由は、アイスランドという限定的な場所を舞台にしながら、作品のテーマとしているのが、今の時代を生きる人間のありさまを描いているところにあるのだろう。その描く人間模様は、世界的な普遍性を獲得するにいたっている。
さて、次は、『湖の男』である。これは、まだ文庫にはなっていないのだが、読んでおくことにしたい。花粉症のシーズンになっているので、外を出歩くことは避けて、家の中に避難している・・・。アーナルデュル・インドリダソンは、広義のミステリという形をとっているが、そのなかで、この時代と世界の人びとを描いている作家だと思う。
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