『警官の掟』佐々木譲2018-05-03

2018-05-03 當山日出夫(とうやまひでお)

警官の掟

佐々木譲.『警官の掟』(新潮文庫).新潮社.2018 (新潮社.2015 『犬の掟』改題)
http://www.shinchosha.co.jp/book/122328/

年をとったせいなのだろうが、本を読むとき、以前よりもじっくりと読むようになった。たいていの本は、細かに字を追っていくことにしている。だが、この本だけは、途中で斜め読みになってしまった。これは、失敗であったのかもしれない。

東京湾岸で発見された、男の射殺死体。それを捜査する、蒲田署の警察官。一方、警視庁でも、独自に調査を開始する。その捜査の途上にうかぶ過去の事件……謎の女医の事件や、教師の溺死事件など。そして、最後にあかされる、驚きの真相。

簡単に書けばこのようになる。

が、この小説、あまりにも、登場人物の視点が錯綜している。所轄署の刑事たち、それとは別に、警視庁の刑事たち。複数の視点が、同時並行で語られる。それが最後に一つになったとき、真相が明らかになる……このようなストーリーの展開であることは分かるのだが、今ひとつ、登場人物に感情移入できないで読んでしまった。(これも、じっくりと読んでみれば、そうではなかったのかもしれないのだが。)

警察小説というのは、やはり、登場人物の視点はシンプルであった方がいい。そして、その視点人物(警官)に感情移入しながら読み進めるというのが、理解しやすい。この作品、構成において大胆な試みをもってきた、斬新な警察小説であるという気はするのだが、従来の警察小説の枠組みの印象で読んでいくと、無理を感じる。

警察小説というのは、警察官という特殊な職業の人間にどれだけ、感情移入して読めるかだと思う。それが、素朴な正義感であったり、あるいは、悪徳警官であったりしても。(私の読んだ印象では)この作品の場合、結局、どの登場人物にも共感できないで終わってしまった。といって、再度読んでみようという気もおこらないのであるが。とはいえ、リアリズム警察小説としては、一級のできばえの作品ではあると思う。

気をとりなおして、宮部みゆきを読むことにしようかと思っている。

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