『英語という選択』嶋田珠巳2018-09-24

2018-09-24 當山日出夫

英語という選択

嶋田珠巳.『英語という選択-アイルランドの今-』.岩波書店.2016
https://www.iwanami.co.jp/book/b243721.html

以下の文章は、この本が出たときに買って読んで書いておいたものであるが、なんとなくそのままになってしまっていたものである。『台湾生まれ 日本語育ち』(温又柔)について、書いたので、思い出して取り出してみることにした。言語と国の問題は、様々な立場から、様々に考えることのできる問題である。

やまもも書斎記 2018年9月22日
『台湾生まれ 日本語育ち』温又柔
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/09/22/8963402

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アイルランドについての知識としては、私がこれまで読んだ本としては、高橋哲雄のものがある。(かなり以前のことなので、忘れてしまっている……)。

高橋哲雄.『アイルランド歴史紀行』(ちくまライブラリー).筑摩書房.1991
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480051653/

漠然と、イギリスのとなりにある、島……北アイルランドは英国の一部であり、かつて、飢饉にみまわれ、多くの移民が国外に移住していった。(ちなみに、『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラの家系もアイルランド系である)。そして、言語としては、英語の国だと思っていた(正直な話し。)

だが、この本を読んで、その認識が誤っていたことを知った。アイルランドは、アイルランド語の国なのである。

この本については、すでにいろんなところで紹介されていると思うので、特に付け加えて記すほどのこともないと思う。イギリスの隣に位置している(かつては植民地)という関係から、英語がメインに使用されるのであるが、母語としてのアイルランド語に、国民国家のアイデンティティをつよくもっていることが、社会言語学のフィールドワークから描き出されている。

この本を読んでの率直な感想を記せば……かなり慎重にことばを選んで記述しているな、ということである。「国語」ということばが時々つかってある。アイルランドという国民国家の母語としての言語という意味においてである。今、一般に、言語研究者は、「国語」の語をもちいることは基本的にない。特に、日本語研究者は、意図的につかわないことが多いと思う。でなければ、それと意識してあえて「国語」という場合もある。

「国語」ということばもそうであるが、言語の問題を考えるときに、日本に事例をさがすような場合、方言と共通語の問題とか、英語の早期教育の問題とかが少しでてくるぐらいである。言語政策、言語交替ということであるならば、日本語として出てくるのは、かつての植民地であった、朝鮮半島や台湾における言語政策のことがある。このことについて、この本は、一切ふれていない。

また近隣諸国をみれば、現在の中国における、少数民族に対する言語政策が問題になるだろう。だが、このようなことには、まったく言及していない。

これは、意図的にであろうと思って読んだ。おそらく、この本を読むような読者のみなさんは、このような世界の歴史における言語の問題については、いろいろ関心があるでしょう。しかし、この本では、そのことに直接言及することはしません。その問題については、この本に書いてことを参照して、自分で考えてみてください……強いていえば、このようなメッセージが強く伝わってくる印象の本であった。一切、そのようなことには言及していないが故に、逆に、つよくその意図が強くなる、そのような記述・構成になっている。

近現代の日本語のあり方を考えるうえで、この本はいろんなヒントをふくんでいると思う。

コメント

_ 小原正靖 ― 2018-09-24 05時37分20秒

大学の教養科目西洋文学でアイルランド文学にふれ子どもと今はもうなくなった東京都青山こどもの城でアイルランドの音楽にふれ親しみ2002年日韓サッカーワールドカップでアイルランド注目されました 政治学を学んだのでテロとの関連でもアイルランド以前から関心高いです ゴドーを待ちながらサミュエルベケット ノーベル賞受賞者等引用されるものもありアイルランドを知ることは重要でしょうね

_ 當山日出夫 ― 2018-10-01 06時29分42秒

ともかく、アイルランドという国について、もうちょっと日本で知られていいと感じますね。私も不勉強だなと強く思った次第です。

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