『ブラック・スクリーム』ジェフリー・ディーヴァー2018-11-02

2018-11-02 當山日出夫(とうやまひでお)

ブラック・スクリーム

ジェフリー・ディーヴァー.池田真紀子(訳).『ブラック・スクリーム』.文藝春秋.2018
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163909219

毎年、秋になると、ジェフリー・ディーヴァーの新作の訳本が出る。恒例である。今年も買って読んだ。待っていれば、そのうち文庫版になるのだが、文庫になったからといってそう安くなるわけでもない。新作が出れば買って読むことにしている。これは、最初の『ボーン・コレクター』からの習慣のようなものである。

この作品、読み始めて……う~ん、さすがのジェフリー・ディーヴァーも、ここにきて行き詰まりを見せたか、と思うところがあった。これまでの作品のような一種の猟奇犯罪。今度は、誘拐した被害者が縛り首になるシーンを、動画投稿サイトにアップする、という手口。なんとなくマンネリかなと思って読んでいた。

そして、舞台は、イタリアに移る。イタリアで新たな犯罪がおこる。リンカーン・ライムもサックスとともにイタリアのナポリへ。ここも、これまで、主にニューヨークを舞台にしてきた作品であるが、そろそろ場所を変えてみたのか、しかし、ちょっと強引な感じだな、と思って読んでいた。

だが、終盤にきて、これらがさらなる次のドラマへの伏線になっていることになる。(ここから先は書かない。が、少なくとも、それまでの流れが不自然にならないような展開であることは確かである。)

この作品も、時事問題をあつかっている。(だから、ジェフリー・ディーヴァーの作品は、出てすぐに読んだ方がいい。といって、原書で読める語学力があるというわけではないので、翻訳が出るのを待って読んでいるのだが。)今回の事件の背景にあるのは、中近東の政情不安と移民・難民、それから、テロ。この国際情勢を背景にして、これから、リンカーン・ライムの新たな活躍の場が広がることになるようだ。

リンカーン・ライムの科学的な捜査手法……主に、物理とか化学にかかわる……では、新しいサイバー犯罪などには、あまり効果がないように思える。だが、世の中、人がいてなにがしかの犯罪にかかわる以上、まだまだリンカーン・ライムの手法は有効であると思わせる展開になっている。

これまでのシリーズをひきついで、十分に楽しめる作品にしあがっていると思う。