『白夜』ドストエフスキー2019-02-02

2019-02-02 當山日出夫(とうやまひでお)

白夜

ドストエフスキー.安岡治子(訳).『白夜/おかしな人間の夢』(光文社古典新訳文庫).光文社.2015
http://www.kotensinyaku.jp/books/book207.html

光文社古典新訳文庫でドストエフスキーの作品を読んでいる。調べてみると、この『白夜』という作品は、他にもいくつかの訳がでている。ドストエフスキーの作品のなかでは、異色の短篇ということで有名らしい。

私が読んでみて感じるところとしては、次の二点だろうか。

第一には、この作品も、『貧しき人々』とおなじように、男女の会話、というよりも独白的な台詞のやりとりで進行する。ここに描き出される恋物語は、淡くはかなく、純情可憐である。『カラマーゾフの兄弟』や『悪霊』を書いた作家が、こんなふんわりとした印象をあたえる恋の物語を書いていたのかという、新鮮さがある。

これは深読みかもしれないのだが……独白的な台詞のやりとりのなかで、お互いに幻想がふくらんでいくような印象をいだく。いったいどこまでが本心、本当のことであり、また、どこからが、妄想とでもいうべき領域になるのか、その境目が混沌としている。

第二は、最後の二人の男女の別れのシーンのイメージの鮮烈さである。くっきりとした印象で、最後の別れの場面が描き出される。ドストエフスキーの作品は、視覚的なイメージのくっきりとた場面が強く印象に残る……たとえば『悪霊』の最後の場面など……この作品でも、かろやかな女性の動作が、きわめて印象的である。

以上の二点が、この『白夜』を読んで感じるところである。

ドストエフスキーの作品、調べてみると、文庫本などで他にも読める作品がある。長編では、『未成年』がある(これは、実は、まだ読んでいない)。が、光文社古典新訳文庫版では、この本でとりあえず出ているのは読んだことになる。これから、折りをみつけて、他の作品をふくめて、ドストエフスキーの作品を、再読、再々読と読んでいきたいと思う。