『君たちはどう生きるか』吉野源三郎2019-02-04

2019-02-04 當山日出夫(とうやまひでお)

君たちはどう生きるか

吉野源三郎.『君たちはどう生きるか』(岩波文庫).岩波書店.1982 (新潮社.1937)
https://www.iwanami.co.jp/book/b246154.html

話題になっている本ということで読んでみることにした。

この本が読まれる現代という時代が、ある意味でいびつなのかもしれないとも思うが、しかし、ここは、なるべく肯定的にこの本を読んでみたいと思う。

この本が最初に出たのは、1937(昭和12)年である。日中戦争のはじまったころということになる。

読んでみて、たしかにいい本だという気になる。今の時代、これほどストレートに、若者にどう生きるべきかを問いかける本は珍しいかもしれない。いや、今日においても、青少年向けの啓発本の類は多くある。教育関係の本もたくさんある。だが、現代のそれらとは、やはり趣を異にするところがあるように思える。そして、そこのところが、今、この本が読まれている理由であるのだろう。

それは、おそらく、現実をふまえながらも理想を語る、その精神のあり方にあるのだと感じる。

昭和のはじめごろ、戦前……社会においては、階級、階層ということが厳然としてあった。また、旧習になじんだままの硬直した組織というものがあった。そのような時代の背景の中において、個々の人間として、どのように生きるべきか、その理想を語っている。いや、理想が形になって表現されているというのではない。現実にある社会のなかで、どのように生きるべきか考えること、それ自体に価値がある、ここが重要なポイントになるのだろう。

おそらく、現代においてこの本が読まれているのは、社会の階層とか組織の中の人間とか、現代社会にも通じるところを読みとってのことだと思う。

が、それよりも私が、この本について感じる魅力は、その真面目さである。社会の中でいきることについて、コペル君も、おじさんも、きわめて真面目である。このような社会と人間について真面目に考えてみるということこそ、現代において失われてしまったものなのかもしれない。真面目に理想を語る、このことの意味を考えて見る必要があると感じるのである。

この本が今読まれているという現実から、今日の社会の病理を分析することも可能だろう。そのような読み方もあってよいと思う。が、今から八〇年ほど前に書かれたこの本の語らんとしたこと、その理想を素直に受けとめることもできる。私は、そのようにこの本を読んでおきたい。