『いだてん』あれこれ「お江戸日本橋」2019-02-12

2019-02-12 當山日出夫(とうやまひでお)

『いだてん~東京オリムピック噺~』2019年2月10日、第6回「お江戸日本橋」
https://www.nhk.or.jp/idaten/r/story/006/

前回は、
やまもも書斎記 2019年2月5日
『いだてん』あれこれ「雨ニモマケズ」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/02/05/9032595

オリンピックの代表に選ばれた四三は、その気がないという。いや、そもそも、オリンピックがどんなものかも分かっていなかったようだ。ただ、走るのが好きではある。しかし、スポーツというものについても、今ひとつ理解がないようである。まあ、この当時……明治の終わりごろ……の日本の普通の人びとの感覚とは、こんなものだったのだろう。

オリンピックの代表に選ばれたと知って四三は、びっくりする。日本国を代表して海外の試合に出る。負けたら切腹ですか……この箇所、かなりコミカルに描いていたけれども、しかし、そのころの日本の若者の考えるところは、このようなところであったのかもしれない。ここを、嘉納治五郎は、そんなことはないと説得してはいたのだが、どうもうまくいったとは思えない。

官費で派遣されることになるから、重責を担うことになる。では、私費で行けばいい。それならば、負けても特にどうということはない。

まあ、確かにそのとおりなのかもしれないが、九州のそれほど豊かであるとも思えない農家の子どもである四三に、この費用の負担はむずかしいのではないか。そもそも、師範学校というもの自体が、官費で運営されている。これからの国家にとって枢要をしめる教育の人材養成の機関であったはずである。その学生である四三に、長期にわたって学校を休んで、海外のスポーツの試合に出てくることを要請すること自体、まだまだ無理があったように思える。

あるいは、費用が、仮に官費で支給されるとしても、純粋に競技に参加することに意義がある、ということには、簡単にはならないだろう。いやおうなしに、「日本」というものを意識せざるをえないにちがいない。

だが、このドラマは、そのような「日本」に対するナショナリズムを、軽く吹き飛ばすような描き方をしている。これはこれで、一つの方針にはちがいない。

一方、この回に出てきた、中国の辛亥革命のこと。当時の東アジア情勢を考えてみるならば、まさに、ナショナリズムの時代である。中国のナショナリズム……辛亥革命……は肯定的に描きながらも、日本のナショナリズムは、どうでもいいいような感じで軽く描いてしまう。

このドラマ、とにかく、日本のナショナリズムをどう描くかが、ポイントであるにはちがいない。これまでのところ、どのような形にせよこれを描くことは避けているようである。また、ナショナリズムを軽く受け流すだけの「毒」をもった登場人物として、志ん生(ビートたけし)が起用されてることになる。

何度も繰り返し書くが、ストックホルムの次には、ベルリンのオリンピック「民族の祭典」があり、幻に終わった昭和15年(1940)の東京オリンピックがあることになる。まさに、ナショナリズムと当時の国際情勢抜きには、描くことのできないところになる。さらに、昭和39年(1964)の東京オリンピックも、ある意味で戦後日本のナショナリズムの高揚を感じさせる大会であったはずである。

中国の辛亥革命を描きながら、日本のナショナリズムは無意味なもののようにえがいている。スポーツとナショナリズムをどう描いて見せることになるのか、宮藤官九郎の脚本については、やや欺瞞的なところを感じずにはいられない。ここは、東アジアのナショナリズムを肯定的に描きながら、一方で、現代の視点(志ん生)の毒舌で笑い飛ばして見せる……このような展開を期待して見ている。あるいは、当時の東アジアの国々におけるナショナリズム……日本であり、朝鮮であり、台湾であり、そして、中国である……を、ダイナミックに描くことも、不可能ではないかもしれないのだが、このドラマにそこまで期待するのは無理だろうか。

追記 2019-02-19
この続きは、
やまもも書斎記 2019年2月19日
『いだてん』あれこれ「おかしな二人」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/02/19/9038000

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